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「……お前が、本気にするとは思わなかったんだよ。ぜってー嫌がると思ったから、それで」
「それならそれで、女の子にそんなこと言うなんてサイテー!」
「……スミマセンデシタ」
まったくもってその通り。そして反省しながらも、俺はちらちらと彼女のズボンの股間の方に視線をやってしまうのだ。結局その下にはどんなパンツが隠れているんだろう、なんてことを考えてしまう時点でアホな小学生男子以外の何者でもないわけだが。
「……ていうか、なんでやるなんて言ったんだよ。パンツだぞ、パンツ。はずかしくないのかよ」
ただそれはそれ。俺としてはどうしても気になったことを尋ねてみるのである。
「それとも、そんなことまでして、俺らにそうじさせたかったのか。ていうか、お前そうじの時が一番うぜーじゃん。なんでそんなマジメにそうじしろ!ってうるさいんだよ」
もっと他の言い方はなかったものか。いや、この時の俺からすれば、これでもだいぶ気をきかせたつもりであったのかもしれない。
彼女はちらり、と俺の方を見て。
「うまく言えないけど。お母さんが言ってたから。おそうじって、“ありがとう”って気持ちを伝えることなんだって」
「ありがとう?何に?」
「教室に。私、学校が大好きだから。学校に、ありがとう、って気持ちを伝えられるの、おそうじくらいしかないかなって思ってるから。だから、ホウキとかイスとか机とか、大事にしないやつがムカつくし、ちゃんとしてほしいの。そうじも、マジメにやってほしいの。……渡辺は、学校のこと好きじゃないの?いつも楽しそうにしてるくせに。学校が好きなら、おそうじくらいちゃんとやってよ」
「…………」
その発想は、なかった。俺は思わず、やや日が傾き始めた校舎の方に視線をやっていたのである。
彼女の言う通り、俺は学校が楽しくてたまらなかった。授業は退屈だし寝てしまうこともあるけれど、友達と会ってわいわい遊べる一番の場所は学校だ。体育の時間のドッチボールとかも楽しいし、運動会や遠足なんて大好きなイベントもたくさんある。そういうものが楽しめるのも全て、学校という場所があるからであるのは間違いない。
俺は、学校が好きだった。
その学校に、感謝の気持ちを伝えるのが掃除である。そんなこと、今まで考えたこともなかったのである。
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