5人が本棚に入れています
本棚に追加
「……学校。俺が一生懸命教室掃除したら、喜んでくれるのかよ」
ぼそ、と告げれば、麻土香は。
「私だったら、嬉しいよ。綺麗にしてくれるって、大事にしてくれてるってことだと思うもん」
「……そっか」
そういえば。上の空だった自分はともかく――やる気を出した友人達の活躍は目覚しいものがあった。やる気になれば、普段サボってばかりの男子達でも、教室やトイレ、廊下をピカピカにすることができるとまさに証明したというわけである(まあ結局報酬はナシになったのだが)。どうせ頑張っても綺麗になんかできないし、とタカをくくっていたのは事実だった。実際ただやる気になっていなかっただけ。今回でそれがはっきりしたのである。
確かに。自分に置き換えてみれば、その通りかもしれない。いじめられて、毎日お風呂に入ることができずに汚くなってしまったらどれほど悲しい気持ちになるだろうか。惨めな思いをするだろうか。
掃除をするということは、教室を“毎日お風呂に入れてあげる”ことと同じこと、なのかもしれない。
「……それにね」
「うん?」
「何で、あんただけ呼び出したのかなんだけど」
「んん?」
そういうことを考えられる麻土香は、自分が思っていた以上に良いやつなのかもしれない。俺がちょっとだけ彼女を見直した時、彼女はそれとなく爆弾を落としていったのだった。
「他のやつらは嫌だったんだけど。……渡辺になら、パンツ見せてもいいかってちょっとだけ、思ったっていうか」
「!?」
悪ガキだった俺だが、体育の成績はクラスでもトップだった。早い話、球技でもリレーでも一番活躍できる男子だったわけである。でもって、自分で言うのもなんだが見た目も結構イケてる方だったわけで。――クラスで一番真面目な女子でも、そんな男子に対して全く思うところがなかったわけではなかった、つまりそういうことだったのである。
ぼそぼそと言われたその言葉に、俺が大いに慌てたのは言うまでもない。
「だめだめだめだめ!あれは忘れろ、ほんと忘れろ!お、お、女の子が!ぱ、ぱ、パンツなんか見せていいもんじゃないから!だめだからああああ!」
大声で叫びすぎて再度彼女に恥をかかせ、“声がでかい!”とひっぱたかれたのも、今ではいい思い出である。
最初のコメントを投稿しよう!