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「……蘇芳も、描くのか」
そう呟くと、蘇芳は心底呆れたような顔でおれを眺めた。
「当たり前でしょ。おれ、『しりとり』って言いましたよね。彩さんはひとりでしりとりするんですか? まぁそれはそれで笑えますけど、そんな彩さんと同じ空間にいるのは遠慮したいですね」
「……ちょっと確認しただけだろうが」
「いくらなんでも確認の内容がアホすぎる、って言ってるんです。スタートは彩さんからでいいですよ。口で言葉を言って、同時に絵を描く」
「言葉で言うんなら、絵で描く意味ないんじゃないか?」
白衣の胸ポケットに刺さっているボールペンを取り出し、その頼りない細さをきゅっと握る。
おれは描きたくない。……けど、蘇芳の描く絵が見られるとしたら。たとえそれが、うらぶれた生協のテーブルの上で、愛想のない罫線が入ったルーズリーフの上に描かれるものであったとしても……それでも見たいと思ってしまう、おれは本当に往生際が悪い。
「じゃあ、絵だけでいいですか? その場合、絵を描けなかったら即負けになりますけど」
「……ちなみに負けたらどうなんの、これ」
「何も得るものも失うものもなく、大の男がふたりでしりとり勝負ってのもあんまりでしょう。負けたら、何かひとつ相手の質問に答えるってのは、どうですか?」
「…………」
「嘘、なしで」
蘇芳の黒い瞳が、すっと細めらる。おれの呼吸、心拍、心の内まで見透かすように。これほど「童心」からかけ離れた遊びがあってたまるか。おれの葛藤のふり幅は完全に掴まれている。おそらくこの男は、勝ち目のない勝負はしない。
描きたくない、蘇芳が描くのは見たい。
答えたくない、蘇芳には答えてほしい。
――どうして絵をやめたのか、おれはこいつに答えてほしい。
おれが、目を伏せて、深呼吸をして、ぐっと掌を握ってから出す答えを、こいつは最初から知っている。
「……いいよ。始めよう」
ほとんど人気のない空間に響いた消え入るようなおれの声に、蘇芳はさっきまでとは少し違う表情で、ふっと笑って頷いた。
こうして、おれ達の謎のしりとり対決がスタートした。
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