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蘇芳の顔写真はなかなかスマートで、これは特にネタにはならなさそうだった。そして、久しぶりに見る「蘇芳日和」という文字の連なりに、なんだか少しくすぐったいような感覚をおぼえ、無意識に口元が緩む。そんなおれを蘇芳は怪訝そうに眺めた。
「そんなもん見て楽しいですか? おれの弱点とか書いてませんよ」
「書いてたらこんなどころのテンションじゃすまないけどな。おまえの名前、久しぶりに見たなぁって」
「名前……? この間も大声で呼んでたじゃないですか」
「そうだけど。でも、こうして見るのは久しぶりなんだよ。別にいいだろ、ちょっとは感慨に浸らせろ」
「……いや、人の名前で勝手に感慨に浸られてもね……。意味がわからないですけど」
蘇芳は呆れ顔でそう言いながら、おれの手から学生証を取り上げるわけでもなくぶらぶらと隣を歩いている。
最初にこの名を見たときには、ただただこいつの描いた「色」に圧倒されていた。入学式でこの名を見つけたときには、こいつが絵に関わる場所にいないことに驚き、戸惑った。でもその蘇芳の名が、今のおれをこの場所に導いているような気がした。
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