新たな出会い

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  『みーちゃん みて! ランが〝おて〟したんだ!  ラン、おて  ほら、ね?』  『わあ! ほんとだ』 『おりこうだね ランは』 『ねえ、ぼくにもするかな?』 『みーちゃんが かってるんだもん、してくれるよ』 『そうかな?   じゃあ やってみる  ラン、…ラン! こっちむいて。いい? ラン、おて!  ……ちがうよ、なめるんじゃなくて てをのせるの』 『あれ? おかしいな……  あ! みーちゃん いつもおやつあげてるからだよ  なにかくれるとおもってるんだ』 『ラン、おては? しないの? おーちゃんにはするのに……  ランッ! おて!!』 『アハハ、それだと〝あご〟だよ  あー、ラン ふざけてる?』 『ランのいじわる! ぼくのいうことも ちゃんときいてよ』 『でも……あごのせてるラン、なんか かわいい  みーちゃんにあまえてるみたいだ』 『そうかなあ?   いうこときかせるおーちゃんのほうが かっこいいけど』 『……いいな みーちゃん、ランといつもいっしょで  ぼくも ずっとランといっしょにいたい』 『でもぼく ランもすきだけど、いちばんは おーちゃんだよ!  おーちゃん だいすきっ!』    びっくりして飛び起きた。  辺りをきょろきょろ見回すと――  すっかり見慣れた光景が、目の前に広がっていた。  東の出窓に、俺の部屋と色違いのブルーのカーテン。  同色系のクッションが一つ置いてある、北斗のお気に入りの場所だ。  暇な時はそこに腰掛けて、クッションにもたれ、ランディーを見下ろしながら本を読んだり、ぼーっとしたりしている。  アパートでは部屋から犬小屋を見る事はできなかったから、今のこの場所がどこよりも落ち着くらしい。リラックスする時間自体、中々取れないのが悩みなんだけど。  それにしてもさっきの夢、驚いた。おーちゃんの頬にキスするなんて……。  おーちゃんがあんまりランをかわいがるから、やきもちやいたみたいだ。  ――夢…だよな?   ほんとにやってたんだろうか?   いや、再会してから何回かキスされたけど、俺からした事なんて一度だってないし……  そこまで考えて、ふるふると頭を振った。  事実だとしても四才児のした事だ。健全な男子高生と比べる必要なんかなかった。  でも、北斗の隣で眠る夜は、子供の頃の夢をやたらとよく見る。 『おーちゃん』の名前を思い出したのも、川土手で二人揃ってうたた寝していた時だった。  どの夢もすごくリアルで、一度内容を話したら実際あった事の再現がほとんどみたいで、それがわかってから益々ここで眠る回数が多くなった。  確か同居初日には、『今夜だけ』と言って頼んだはずなのに。  いつの間に買ったのか、俺用の枕が置いてあったのには笑えた。  北斗がそんな事してくれるからつい甘えてしまうけど、本当は一人で伸び伸び眠りたいってわかってる。  夜中に何度も寝返りを打ったり、朝早くランディーを散歩に連れて行った日の夜はさすがに遠慮する。  だけど誰かと眠る安心感や心地よさを知ってしまうと、一人の夜がよけい淋しくてたまらないんだ。  北斗はそんな事、思わないのかな?   訊いてみたいけど「淋しい」なんて言ったらからかわれるのは目に見えているから訊けないでいる俺、もうすぐ十七才になる高校二年の春。  始業式の日の夢は、おーちゃんに負けたみたいでちょっと……悔しかった。  
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