新たな出会い

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「あ、俺Bだ。瑞希は………残念! また違うクラスか」 「そうみたいだ。んー、…ないなあ。留年、なんて事ないよな?」  クラス替えというものを初めて体験する俺は、合格発表の時と同じ、仮設の掲示板に張り出された編成表をA組から順番にじっくりと目で追っていた。  田舎では…十七人の同級生ではクラス替えも必要なかったから、他の学生には何でもないこんな事も、俺にはすごく新鮮だ。  目を凝らしてD組の名前を追っていると、誰かに肩を勢いよく叩かれた。 「よ! おはよ、お二人さん。吉野、二年でもよろしくな」  山崎だった。 「え、なに…俺また山崎と一緒なのか?」 「そう、その上またE組。でも女子がばらけたから、もう何組でもいい」  朝からしまりのない顔でにやけている。  一年の時よっぽど悔しかったんだ。何だか気の毒だったような。 「あ、ほんとだ! 後ろから見ていけばよかった」  自分の名前を見つけてほっとしたけど、北斗とは去年以上に離れてしまうんだ。間に二クラスもあったら見かける事すらなくなりそうだ。利用する階段も変わるし。 「瑞希? どうした? ほら、お前のクラス藤木がいるぞ」 「え、ほんと?」  もう一度自分のクラスメートの名前を見直してみると…  本当だ。去年の入学式で新入生の代表として挨拶をした藤木聡(ふじき さとし)、それに剣道部の新見克也(にいみかつや)本城 真(ほんじょうまこと)、女子では北斗と山崎の幼馴染、西沢睦美(にしざわむつみ)がいる。  あ、でも西沢も二年連続で北斗と離れたか。  それにしても、去年は一人も知った奴はいなかったのに今年は確実に知ってる奴が十人はいる。  楽しくなりそうだ。  そう思い直し、「行こう」と二人に声を掛け、先に立って歩き出した。  後ろで山崎が「残念だったな」と北斗に言ってるけど、彼は別にどのクラスでもそれ程(こだわ)ってやしない。皆よく知ってるし、同じクラスになりたがる奴ばかりなんだ。  一年の時のC組の団結力はすごかった。リーダーシップっていうわけじゃないのに、何でかクラスがまとまってくる。  もちろん北斗一人の力じゃないのは、わかっているけど。    北斗と別れ教室に入ると、半分程席が埋っていた。去年は名簿通りだった机の席も、二年からは、とりあえず好きな所に座っていいみたいだ。  何もかも初めてで戸惑う俺に、山崎が二つ並んで空いてる席の片方を指差して勧め、自分は隣のイスにさっさと腰掛けた。  何か魂胆……有り?   探りを入れる間もなく「なあ」と珍しく深刻な様子で山崎が口を開いた。 「相原の事、ありがと。夢だったかなー、なんて後から思えて、さ」  らしくない台詞に、つい笑いが零れた。 「ハハ、明日入学式だから明後日にはここで会えるよ、グラウンドで」 「そうだな、けど……田舎での事聞いてから、ちょっと考えてんだ」  頬杖をついて溜息混じりに呟くその言葉に、慌てて反論しかけた。 「冗談だろ、山崎! あれは――」 「ん? ああ、そうじゃなくて……あいつの同級生にさ、特に久住…キャッチャー志望の奴なんだけど」 「あ、知ってる。駿も知ってるよ、あと渡辺っていう子や、他にも三人程、北斗が顔合わせしてくれた」 「そうなのか? なら話早いや。その久住にだけでも相原のそんな事情、話しといた方がいいか止めとくべきか、迷っててさ……」  珍しく視線を彷徨わせ、ためらう同級生を見て、合格発表の日の事が蘇る。  高見の駅で駿を見送った後、ついでに山崎を夕飯に誘って、駿の田舎での経緯(いきさつ)を教えた。 『お前らに呼ばれると、いつも何か思惑があるんだよなー。たまには純粋に誘ってくれ』  と文句を言われたけど、いつでもどこでもできる話じゃない。  それに山崎以外の奴に話すつもりのなかった俺としては、黙ってて欲しい気持ちの方が強かった。  事実を知る人の数が多い程、噂は広がっていく。  四年前の駿の変貌を見ている俺は、噂の恐さをよく知っている。誹謗、中傷の類は特に。  駿の足を引っ張るような事だけは絶対避けたい、そう思い顔を上げた俺を山崎が手で遮った。  俺の気持ち、読まれた? 「わかったよ、他には言わない事にする」  やっぱり。まあ今のは思いっきり表情に出してしまったか。 「そうしてくれたら助かる。久住がどうとかじゃなくて、中学の時も親の言う事鵜呑みにした同級生の態度に、あいつすごく傷付いたんだ。あんな事二度と繰り返させたくない」  せめて、事情を知っても揺るがない関係を駿が作るまでは、そっとしておいてやりたい、そう考えていた。 「そうだな。……久住や他の奴にとっても、知らない方がいいかもな。真っ白な状態で相手を知っていくのが、一番確かだし面白いもんな。友達でも彼女でも」  そう言って、にっと笑った。  山崎の基準は、あくまでそこにあるらしい。  どんな()がこいつの彼女になるのか、俺の方が楽しみになってきた。
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