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緋色の宝玉
世界が恐怖に染まり、邪悪な魔獣たちが大地を踏みしめる時。
その時、異世界から転生した者が黒い魔剣を使い、この世全ての混沌を砕く、と。
私は未知の言葉を話す黒衣の剣士を見上げた。
もしかして、この人は!
「貴様、転生者だな」
ドラゴンは両腕から多量の血を流しながらも、嬉しそうに長い舌を伸ばしてみせた。額に埋めこまれた緋色の宝玉が、邪悪な光を灯す。
すると、あろうことか失われたドラゴンの腕が再生したのだ。
「面白い。食事前の余興とは、気が利いているではないか」
漆黒の剣士は大剣を持ち直し、ドラゴンへ構えると、足を引き、体勢を低くした。
「だが、転生者ごとき……」
再びドラゴンの宝玉が光を放ち、尾を高く持ち上げると、力強く地面に叩きつけるた。すると、大地が裂け、巨大な岩がいくつも宙へ浮かび上がっていく。
「我の敵にあらず!」
ドラゴンの雄叫びと共に、旋風が吹き荒れる。宙に浮かぶ岩が、剣士めがけて一斉に襲いかかった。
剣士は大剣を右半身へ構えると、見事な身のこなしで襲いかかる岩を避け、1つ、また1つと器用に粉砕していった。まるで熟練の兵士のような華麗な身のこなし。そして、着実にドラゴンとの距離を詰めていく。
「凄い……」
呆然とする私を後目に最後の岩を砕くと、ドラゴンの胸元へと飛び込み、下段から上段へと大剣を振り上げる。肉の裂ける音ともに、辺り一面にドラゴンの血が飛び散った。
だが、ドラゴンは怯むどころか、変わることなく不気味な笑みを浮かべたままだ。
「その程度か」
額の宝玉が輝きを増す。すると、ドラゴンの胸にあった傷は塞がってしまった。
この凄まじい回復力……きっと、あの宝玉のせいだわ。以前、私は聞いたことがあった。ドラゴンは長い眠りにつく間、大地の生命を奪い続け、額の宝玉に魔力を溜めこんでいるのだと。だからドラゴンの住処には、草木の1本も生えないのだ。
剣士は飛び上がり弧を描くと、私の隣へ降り立った。一瞬、私に目配せすると、大剣を天へとかざす。
「働いたら負けかなと思ってる」
「え?」
掲げられた大剣が、勢いよく地面へ叩き下ろされる。ドンッという激しい音と共に、砂塵が舞い上がった。
「小賢しい」
ドラゴンは背中の翼は広げると風を起こし、砂煙を吹き飛ばす。
「……!」
煙が晴れた頃、私は黒衣の剣士に抱かれ、森の中を逃げていた。人間の足の速さとは思えないスピードで、ドラゴンの元から遠ざかっていく。
「ま、待ってください!」
このまま私が逃げてしまったら、村が襲われてしまう。今は夜だ。皆、寝ている頃だろう。そこをドラゴンに襲撃されたら、今度こそ皆が殺されてしまう。
頬が濡れているのがわかった。いつの間にか私は、両の瞳から涙を流していたのだ。
剣士は私の顔を見ると、立ち止まった。
「もちつけ」
相変わらず何を言ってるかわからないが、なんとなく心配してくれているような気がした。
涙を拭い、なんとか堪えようと大きく息を吸い込む。
「転生者様、お願いです。私と一緒に、ドラゴンと戦ってください!」
「…………」
身振り手振りで、なんとか伝える。
私を助けて逃げてくれているのに、また戦えなんて。しかし、私1人だけでは錆のドラゴンに勝つことはできない。でも、この黒衣の剣士……伝説の転生者、黒の魔剣士が一緒に戦ってくれるなら。
「おk」
剣士は私を腕から下ろすと、こくりと頷いた。了承してくれたみたいだ。
私は地面にしゃがみこむと、小枝を使ってドラゴンの絵を描いた。あまり上手くはないけど、きっと、伝わるはず。
「転生者様、私にドラゴンを倒すための作戦があります。聞いていただけますか?」
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