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吹雪け!エターナルフォースブリザード
私は大樹の枝に隠れ、ドラゴンを待ち伏せていた。この道はエルフ村へ通じる唯一の道……ドラゴンは必ず、ここを通るだろう。
錆のドラゴンは大食らいだ。だから空を移動せず、道中の獣たちも貪欲に食らうために必ず足を使って移動する。そして、執念深い。まだ、私を探しているに違いない。
作戦、といってもたいしたものじゃない。私が弓矢を使ってドラゴンの瞳を穿ち、ドラゴンの気が逸れている間に岩陰に隠れている転生者様が大剣で額の宝玉を破壊する。これだけだ。
でも、これが上手くいけば、ドラゴンは自己修復するだけの魔力を保てなくなる。
ずしり、ずしり、と足音が聞こえてきた。
来た……ドラゴンだ!
私は弓矢を構えると、幹の影からドラゴンの居場所を確認した。
大丈夫。この程度の距離なら、ドラゴンの目を射ることはできる!
さらにその奥、岩陰から黒衣の剣士がこちらを伺っている。
あと数歩。1歩、2歩、3歩……
ここだ!
私は合図を送ると、めいいっぱい弓を引いた。
急にドラゴンが動きを止める。そして周囲をぐるりと見回すとゲラゲラと笑いだした。
「臭う、臭うぞ!エルフの娘よ!どこに隠れておる!?」
突然の出来事に驚いた私は、足を滑らせ木から転落してしまう。落ち際に放った矢はドラゴンから大きく外れ、心許なく虚空へ消えていった。
肩から地面に着地する。痛みを我慢し立ち上がり、剣士へと目を向けた。ダメだ、もう岩陰から出てきてしまっている。肩を痛めたせいで弓矢も使えない。なにより、今の一撃で私の居場所がバレてしまった。
「そこだな?」
ゆっくりと、ドラゴンがこらに顔を向ける。
「光の精霊よ!」
せめて、ドラゴンの気を逸らさなくては。私は呪文の言葉を口にする。
「邪悪なる者を盲い、我が友に栄光の道を示せ!」
いくつもの小さな光が鋭く直線を描き、ドラゴンへ向けて飛んでいく。
「小癪な!」
ドラゴンの視線が光へ向く。
隙が、できた。
「今です!」
黒衣の剣士は背後からドラゴンの尾に飛び乗ると、そのまま一直線に背を駆け抜け、頭上に立った。
瞬きをする間もなく、大剣をドラゴンの額の宝玉に突き立てる。硬質な音が響き渡ると、緋色の宝玉は半分に割れ落ちた。
「おのれ……!」
ドラゴンが大きく首を振ると、剣士はすかさず飛び退き地面に降り立つ。
「転生者とエルフの娘ごときが……よくも我を侮辱してくれたな!」
見上げると、ドラゴンの瞳は憎しみの炎を宿らせていた。半分になった宝玉が、今までにない輝きを放っている。
私はすぐに異変に気づいた。
周囲の空気が濁り、ドラゴンの腹が見る間に膨れ上がっていく。
いけない。あのドラゴンは、灰の炎を吐くつもりだ。まだ、そんな魔力が残っていたなんて……!
「転生者様、逃げてください!」
私はありったけの声を振り絞って叫んだ。
「あのドラゴンは、灰の炎を吐くつもりです!灰の炎は全ての物を燃やし尽くしてしまいます!このままでは、転生者様も!」
彼は眉ひとつ動かすことは無かった。そのかわり、聞き取れないような微かな声で呟いた。
「kwsk」
私は愕然とした。駄目……何言ってるか、本当に全然わかんない……!異世界語なんて。どうしよう、このままだと、二人とも灰の炎で焼き尽くされてしまう!
絶望に打ちひしがれ、死を覚悟したその刹那、黒衣の剣士が呟いた。
「その雪に触れたものは瞬時に華の様に凍りつく……」
濁りきっていたはずの空気が突然、凪いだのだ。
見ると、左手には緋色の宝玉の片割れが握りしめられている。剣士の体がメラメラと、熱く燃えたぎる青い炎に包まれていく。
「吹雪け」
黒衣の剣士は漆黒の大剣を空へかざし、静かな声で詠唱した。
「エターナルフォースブリザード」
突然のことだった。森が一瞬にして、氷の世界へと変貌したのだ。
見上げると、錆色のドラゴンまでもが巨大な氷塊と化している。
目の当たりにした光景に、言葉を失う。こんな魔法があったなんて。
私は安堵の溜息を漏らすと、その場にへたりこんでしまった。
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