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ティリー・ティッド・Jrの武器屋
「ティリーさん、いつもありがとう!」
「なぁに、いいってことよ」
ドラゴン討伐から1週間後ーー私は勇者様を連れて、町へ来ていた。
今いるのは、昔馴染みの武器屋で武器職人のティリー・ティッド・Jrさんの店だ。
エルフは基本、自分の弓矢は自分で作るものだけど、不器用な私にはそれができない。
昔は兄が代わりに作ってくれていたけど、自分がいない時のためにと紹介くれたのがここ。彼は人間でありながら、ドワーフ顔負けの武器を作るので有名な職人さんだ。
以前兄が、ティリーさんのお父さんを魔獣から助けたことがあり、それからずっと家族ぐるみでの付き合いになっている。
ティリーさんのことは赤ん坊の頃から知っているが、今は5人の子供を持つ気風がいいおじさんだ。
「しかし、錆のドラゴンを倒したやつがいると噂では聞いてたが……」
緋色の宝玉を手にとり、しげしげとルーペで鑑賞する。
「紛うことなき、ドラゴンの宝玉。こりゃあ、大したもんだ!」
自分のことじゃないのに、なんだか誇らしい。勇者様は壁に飾ってある武器を手にとったり眺めたり。ここには珍しい武器も多いので、興味を引かれるのも当然だ。
「初めてお目にかかる品だ。超レアな魔法鉱物、間違いない。で、そのドラゴンを倒したってのは、そこの?」
「はい!こちらがあの錆のドラゴンを討ち取った勇者様です!!」
ティリーさんは宝玉を鑑定机に置くと、勇者様へと近寄った。気がついたのか、勇者様は動きを止め、ティリーさんへと向き直る。
「貴方が伝説の!いやぁ、お目にかかれるなんて光栄ですぞ!」
身を乗り出しすティリーさんに押されているのか、勇者様は数歩後退った。ティリーさんはすごく良い人なんだけど、体も声も大きく、筋肉隆々の巨漢だ。小柄な勇者様には、少し怖いかのもしれない。
あんなに勇猛果敢にドラゴンを打ち倒した勇者様が、と思うと、ちょっと親近感が湧いてしまう。
「ところでティリーさん」
「どうした?」
「なんだか今日は、町に人が多い気がするんだけど……」
窓の外を行き交う人が途切れない。いつもだったら、ほとんど人を見ることもないのに、今日は多種多様な種族が行ったり来たり。こんなことは、初めてだ。
しかも、ほとんどの生物が武器を持っている。魔獣でもでたのだろうか?
「イバン、お前知らないのか?」
ティリーさんが驚いたような顔をる。私はなんのことかわからず、キョトンとした。
「明日は年に1度の日食祭だぞ!」
日食祭……そう言えばそんなお祭りがあったっけ。あまり町に来ることのない私は、村の住人から話だけは聞いたことがあった。
1年に1度、真昼に太陽の欠ける日。この日、町の外れにある廃城に大量の魔獣がでてくる。
大昔は誰も近寄ろうとしなかったが、その噂を聞きつけた剣士や魔術師が腕試しにと他の地方から集うようになった。人が集まれば商人も集まる。いつしか日食は”日食祭”と呼ばれるようになり、この町の名物となっていた。
「イバン、お前旅にでるんだろ?弓を少し強化したほうがいい。せっかくの宝玉もこのままだともったいないから、少し手を加えさせてもらいたいのだが、いいか?」
「大丈夫、だと思います」
「ちょいと時間がかかるな。夕方までには出来上がるから、どうせなら祭り空気でも楽しんでこいよ!中央の方に行けば出店や見世物もやってるぞ」
「そう、ですね。行ってみようかな。ティリーさん、教えてくれてありがとう!」
私は名残惜しそうに武器を眺めている勇者様の手をとると、町へ繰り出した。
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