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迷子の迷子の子猫ちゃん
時が止まったような気がした。そんなこと、あるはずがない……絶対に。だって彼は、あの錆のドラゴンすら凌ぐ強さの持ち主なのだから。
私は勇者様の手をとると、一目散に逃げだした。背後で店主の叫び声が聞こえたが、そんなことは知らない。絶対に、ありえない。ありうるはずがない……
無我夢中で走り続けていると、ドンッとなにかにぶつかって尻もちをついた。目を上げると、赤い甲冑に身を包んだ巨躯の獣人が立っていた。
「おいおい、お嬢ちゃん。前見てないと危ないぞ」
金色に輝く巻き髪を揺らしながら、ぴょんとはえた髭を下に向け、柔和に微笑んだ。
「ご、ごめんなさい……私ってば、本当にごめんなさい!」
「いや、そんなに謝らなくても…………ん?あんたらも、魔獣討伐大会にエントリーするのか?」
「え、えっと、違います、けど……」
「そうか。後ろのお兄ちゃんが随分と立派な剣を持っていたからてっきり。あ、いかん!受付の時間に遅れちまう!お嬢ちゃん、祭り楽しんでいってくれよ!」
獣人は手を振ると、甲冑ガシャガシャと鳴らしながら走り去っていった。
本当に色んな種族が集まっているんだな……今までは町に来てもティリーさんのお店に寄るくらいだったから。
今日は日食祭の前日。少しくらいハメを外したって、罰は当たらないよね。
私は気を取り直すと、勇者様へと振り返る。今度こそ、祭りを楽しむのだ。
「ママァーーーーー!!!」
子供の泣き叫ぶが聞こえ、ギョッとする。勇者様の隣にはいつの間にか、幼い獣人の子供がべそをかいて立っていた。勇者様はまた私の知らない間に、厄介事に巻き込まれてしまったのだった。
「え、えっと……お嬢さん、名前は?」
「ママがいなくなっちゃったーーーワーーン!!」
キーンと頭に響くような子供の泣き声に、どうしていいかわからず狼狽していた。兄弟では私が末っ子だったし、あまり村の幼い子と接したこともない。こんな状況、どうしたらいいの?
勇者様は子供を見て、瞳を輝かせている。ゆっくり子供の目線まで腰を落とすと、思いっきり獣人の耳を両手でつかんだ。
「ぬこ耳!ぬこ耳がリアルに!!漏れの目の前に!!!^p^hshs」
可愛い獣人の幼女を見て完全にはしゃいでる……
ダメだ、この人。早くなんとかしないと。
「勇者様、ダメです!獣人の耳は敏感なんで!」
「痛いよーーーー!!!!ウワーーーーーーーン!!!!」
「勇者様のせいでもっと泣いてるじゃないですか!!」
「漏れのせい?」
キョトンとする勇者様。少し考えるような素振りをして子供の耳から手を離すと、ポケットから1枚のコインを取りだした。
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