恋歌ロンリネス

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 楓はまず研究室の内線にかける。 「ああ、山科です、いま時間あるかい? うん、誰でもいいんだけど。よし、じゃ、時計台まで実験室のサンダルで一番綺麗なやつ持って来てくれるか? そう、いますぐ」  それから、呉服屋の息子にざっくり状況をLINEで知らせると、運良くすぐ着信があった。 「どったの、先生」 「俺に恩を売るチャンスだ、御曹司」  と始まった通話は、「了解。ちょっと姉ちゃんらに聞いてみるから、待っとって」と切れた。そして自分の今後のスケジュールとタスクを反芻してから、楓ははっと気が付く。 「すみません、最初に確認するべきでしたね。これからのご予定は? 学内のどちらかにご訪問でしたか?」  ぼうっと楓を眺めていた紳士は、幾度か瞬きした。 「はァ、こちらの図書館に昔の… 師匠の噺の音源があると伺いまして、そちらは無事に用が済みました」  ししょうのはなし? 音源?  耳慣れぬ言葉に楓は内心、首を傾げたが、そこに拘っている場合でもないので、軽く頷くと先を促した。 「ではこの後のご予定で、お時間が迫っているものはありますか」 「…いいえ、もう、あとは宿に戻るばかりで」  やはり旅行者か。ならば、まずは修理に目的を絞ってもいいだろう。楓は胸の内で頷く。  今日はもう講義もゼミもないので、数時間、研究室を空けても問題はない、と判断したところで声が聞こえた。
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