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橘匡久は、田舎町にある父親が創った病院で、院長をしている。
病院は家から歩いて約十五分のところにある。
十二月半ばの土曜日、彼は家路を急いでいた。
夜九時過ぎの人気のない道路は、冷え込みも激しい。
仕事から帰宅した匡久は、自分で玄関の鍵を開け、家に入る。
「ただいま」
「おかえりぃ!」
「え?」
いつもは玄関に出迎えになど絶対来ないのに、なぜか今日に限ってドアの正面にいた、中三の次男・巧に匡久は驚く。
同時に、パシャリとスマートフォンのカメラのシャッター音がして、二度驚いた。
撮ったのは、高一の長男・奏だ。
「何やってるんだ?」
匡久が聞いても、二人とも、ふふっと笑うだけで答えない。
「嫌な感じだなあ」
と、匡久は眉をひそめる。
「二人して、またなんか悪いこと考えてるんじゃないだろうな」
「またって何ですか。何にも悪いことしたことないでしょ」と巧。
「そうだよ」と奏も口をとがらせて抗議する。
「……勝手に人の写真撮ったりすると、肖像権の侵害になるんだぞ」
「別に、どこにも公開しませんもん」
「でもお父さん、写真撮られるの自体が嫌いなの」
「はーい」
「本当にわかってるのかなあ。何に使うのか教えなさい、その写真」
「えー、何にも使いませんてば」
「じゃ、消してほしいんだけど」
匡久が右手を差しだすと、巧はその手を握り返してきて、握手したまま、ぶんぶん振った。
「じゃ、僕と一緒に写真に写ってください。それならいいでしょ?」
「ええ?」
納得していない匡久にまとわりついた巧が、カメラに向かってVサインを出す。
奏は、その二人を写真に収めた。
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