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創は腕時計の秒針が十を差すのを確認して、片目を閉じて空を仰いだ。
視界には反り返るように高く伸びあがるサンシャイン。空ではくすんだ灰色の雲が、腹を空かせていらついた野良犬のように唸りだしたところだった。
創が上を見上げて数秒後、ポケットで携帯電話が震える。取り出した携帯電話には妹から「成功した!?」とメッセージが届いていた。
「ダメみたいだ」と創が返事を入力している画面に雨粒が落ちる。地面の煉瓦調のタイルにも、次々と水玉模様があしらわれていく。創は軽く息を吐きだした後で、妹に返信のメッセージを送った。
すると今度は、着信を知らせるメロディが鳴った。
ベロを出してあかんべぇをしながら片方の手でピースを目元に当てる、赤い蝶ネクタイのブレザー姿の女子中学生が、創の携帯電話に浮かび上がる。その胸元には、三角紬と着信元を知らせる名前の表示がされていた。
創が受話ボタンを押すと、アメリカのキャンディーのように甘い声が受話口から創を呼んだ。
「お兄ちゃん! こっちはレイニーサンシャインな人生模様になってきたけど、そっちはどう?」
「ビルの上と下で天候に差はないよ。こっちもその、紬の言うところのレイニーサンシャインだ。一旦、噴水広場の見えるカフェに待避しよう」
「オッケー! タリタリコーヒーあたしはキャラメルシナモンモカ!」
電話は唐突に切れて、代わりにカーテンを引くような滑らかな春の雨音が創の周囲に広がっていく。創はもう一度ビルの屋上の、紬がいたと思しきあたりを見上げてから、早口でしゃべる味気ない化粧をした二人組の女の後について自動ドアを抜けた。彼女たちの持つビニールバッグに書かれた髪のカラフルな美男子たちは、携帯に映った紬と同じあかんべぇピースをしていた。
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