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紬が通う私立人間寺学園の中等部ではこんな噂が広がっていた。
サンシャインの屋上から落とした目薬を入れた目には、六十分の間、幽霊が見える。
二階から目薬なんてものじゃない、六十階から目薬。
午後三時過ぎ、創が学校から帰ってリビングに入ると、家族用メッセージボードにこう書かれていた。
「ナンジャタウンの前で妹が待っています、至急来たれよ」
創は帰宅途中に雨の匂いがしたのを思い出して折り畳み傘を二つ鞄に入れると、制服のまま池袋に向かった。
いざ、創がサンシャインの最奥にあるナンジャタウンの前に着いてみると、紬は頬をパンパンに膨らませて「おっそーい!!」と叫んだ。サンシャインの反対側にあるアイスクリーム屋の店員が、驚いた拍子に二段のアイスを三段にしてしまうのではないかと心配になるくらい大きな声で紬は叫んだ。
「たかが二十年生きたくらいであたしに声かけてきちゃう男の人がこの街には何人いると思う? あたしは三千人はいると思うわ!」
白黒フィルムの中のミッキーマウスのように目まぐるしく表情の変わる紬は、駅ビルにかかるアニメの垂れ幕の真ん中に立つパラレルワールドピクニックのヒロイン「ユーラシアひかりん」によく似ていて、その大きな目が半べそで創を睨みつけて言った
「あたしはこれから幾百年の歴史を持つ幽霊たちと話をするっていうのに、若造がしゃしゃりでてこないでって感じ」
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