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「眞鍋さんは?」
「…まぁ、遠距離だけど」
「へぇ…どんな感じの方なんですか?彼女さん」
眞鍋さんは一瞬宙を仰ぐと、じっと私の顔を見つめている。
「そうだな、池澤さんに似てるな」
「へっ」
思いがけない返答に、間抜けな声が出てしまったと同時に、後頭部に力を加えられ抱き寄せられた。
目を閉じる間もなく、唇が重ねられる。
やがて口内を動き回る生暖かい感覚。アルコールのせいなのか、やたらリアルに伝わる。
「…っ、ん」
酸欠に吐息がもれ、目尻に涙が浮かんだところでようやく解放された。
「…悪い、酔ったみたいだ。おやすみ」
眞鍋さんはそのまま部屋を出ていった。後に残されたのは数本の空き缶と呆けた私だけ。
(い、今のって…)
思考回路の遮断されそうな頭で、必死に考える。
「キス…された…」
思わず唇に指を当てる。さっきの出来事がフラッシュバックした。
「とっとりあえず、片付けて寝なきゃね!」
大きなひとりごとを言って、空き缶をビニール袋に入れてから、ベッドにダイブした。
―ベッドに入ったはいいものの、なかなか寝つけなくて寝返りを打ってばかり。
翌日(厳密には今日)の移動時間は、そっくり睡眠時間に充てられたのだった。
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