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「…じゃあね」
「唯衣」
名前を呼ばれても振り返る気はなかった。
「元気でな」
背中でそれを聞いて、秀一のマンションを後にした。
ショックだったのは、浮気されていた事実と、それを見抜けなかったこと。
未熟な自分に腹が立った。
気づけよって。
物分かりがいいなんて、皮肉られたって嬉しくない。
『別れてくれ』って決定打を言わないなんてズルい。
挙げ句の果てに『元気でな』謝罪?詫びたつもり?…確かめてもどうにもならない。
真意はどうあれ、秀一の気持ちは私から離れてる。
浮気相手に本気になった。
情けなくて、やるせなくて。
帰ってから美和と佳音にメールした。
すぐに駆けつけて来てくれた二人は、自分のことのようにすごく怒ってくれて―…。
秀一の前で流せなかった涙が、やっと堰を切ったように溢れ出した。
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