初めてメディア取材に応じてくれた理由

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初めてメディア取材に応じてくれた理由

 半年前の事です。とあるご婦人から依頼を受けました。ええ、お客様です。ご主人の容態が悪く、しかしいくら精密検査をしても原因がわからないというお決まりのパターンでした。  そのご主人は五十代半ばです。かなりの資産家でした。眠ったまま、痩せ細り点滴から栄養を摂取している状態。  胸の穴はいつも通りブラックホールのよう。しかし、少し妙でした。穴の周りはドロドロとしていたのです。タールのように、真っ黒でドロドロ……。  もっと深く考えるべきでした。(まれ)にですがそういった汚い醐味を僕は見かけていたのですから。  僕はそのご主人が元気だった頃の生活習慣を調べ、醐味を探してあちこち歩き回りました。少し難航しましたが、滅多に利用しない放置された山奥の別荘で醐味を発見しました。  真っ黒でドロドロしていましたよ。  回復して目を開けたご主人はなぜか悲しそうだったのを覚えています。やはり、僕はもっと深く考えるべきだったんです。  なぜ気づかなかったのか、悔やんでも悔やみきれません。そのご主人は醐味を落としたのではなく捨てたのでしょう。それを僕は拾って元通りにしてしまった。  一ヶ月前の事です。僕の婚約者が殺されました。  犯人は山の中にある自分の別荘へ僕の婚約者を連れ込んで殺害し、埋めようとしている所を通りかかった人に目撃され逮捕に至ったそうです。犯行現場の別荘周囲からは行方不明の女性達の遺体や骨が見つかりました。  そうです。今大騒ぎされてるその事件です。はい。犯人は僕のお客様のあのご主人です。僕は殺人鬼が捨てた狂気という醐味を拾い元通りにしたという訳です。  無差別ですよ。僕の婚約者が狙われたのは。偶然。いや、必然かな?  皮肉ですよね。やはり醐味の名称を美しい響きのものにしなくて良かった。醐味。ゴミ……。そこだけは大成功ですよ。  すみません。話しが脱線してしまいました。こうして取材に応じている理由は、誰かに僕の醐味を見つけ出して拾って欲しいからです。  婚約者を失い、心にぽっかり穴があいたようで何もやる気が起こらず死ばかりを考えてしまいます。辛くて辛くて仕方ないのです。  ええ。胸の穴も醐味も見えなくなってしまいました。ですから、僕と同じ能力を持つ人にお願いをしたいのです。きっと僕の醐味は罪深い形と色をしているはずです。  宜しくお願いします。  
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