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きっかけ
隣に住んでる男の子が担架で運ばれてたんです。あ、マンションの。僕が高三の時です。十八歳だったからちょうど五年前か。雪が降った夜でしたね。
眠っていたら救急車のサイレンがうるさくて目が覚めました。バタバタとドアの向こうも一層騒がしくなって、両親と一緒に外に出たんです。
男の子は確か小三だったかな?隣のご家族とは挨拶程度の付き合いでしたが、いつも元気そうな姿をよく目にしていましたから、担架に横たわる男の子の顔色の悪さに驚きました。それから胸の穴の形にも。
男の子のご両親は「どうしてだろう」とか「アレルギーも持病もないのに」とか大声で取り乱していました。その一行がエレベーターに乗り扉が閉まると、他の部屋の野次馬の人々も不安そうな表情で引っ込んでいきました。
僕も両親に声をかけられ中へ戻ろうとしたんですが、見つけたんですよ。落ちている醐味を。すぐにわかりました。あの男の子の醐味だと。
形ですよ。普通はいびつな形なのですが、男の子の胸の穴はくっきりとした星の形だったんです。落ちていた醐味も星の形だった。それを拾い階段を駈け下りて閉まる寸前の救急車に飛び乗りました。
そりゃみんな唖然としていましたよ。でも無我夢中でしたからね。急いで男の子の胸の穴に醐味をはめ込みました。
例えるなら、そうですね……野球ボールを星型でくり抜いたって感じです。こう、手のひらでコロコロとする感じ。その男の子の星の形の醐味の場合は、まさしく星のようにキラキラ光っていました。
胸の穴は胸の辺りにあります。穴の周りは醐味と同じ色で輝いていて穴自体はブラックホールみたいな感じです。
ええ。はめ込んだと同時に男の子は目を開けてむくりと起き上がりました。顔色もすっかり元通りになっていましたね。勿論みんな再び唖然としていましたよ。
その男の子の話しによると、男の子の夢は宇宙飛行士だったけどお父様から「お前がうちの家業を継いでくれないと困る」と言われ、それからの数日間何もする気が起こらなかったらしいです。
この経験で僕は胸の穴と醐味の関係を理解しました。ちょうど進路に迷っている時期でしたからね。探偵とか何でも屋みたいな人が困ってるのを助けたい、事件を解決したい、って漠然とした思いがあったんで。
それで始めたんです。醐味拾いという仕事を。
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