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「ここは?」 人の気配がなくなった建物の前で俺は訊ねる。 クスリと笑うと、翔琉はようやく俺の手を離しそのドアへ手を掛けた。 左手でゆっくりドアを開けた翔琉は、先に俺が入るよう促す。 一歩進むと、厳かな空気と共に落ち着く木の香りが鼻腔へ充ちる。 目の前に真っ直ぐ延びた路の先には十字架が。両脇には、それぞれ真っ赤なポインセチアが飾られた木製の長椅子が幾つも列で置かれていた。 「チャペルみたい」 俺の言葉に翔琉は「そうだ」と、同意する。 十字架の上にある三角の羽目窓からは、ダイヤが散りばめられたような綺麗な山の星空が覗く。 翔琉は足元へランタンを置くと、俺の前へ手を差し出した。 自然の流れで俺はその手を掴むと、翔琉は十字架の前までゆっくり進んだ。 「颯斗」 不意に真剣な声に名前を呼ばれた俺は神聖な空気に呑まれ、返事した声が緊張で裏返る。 クスクスと翔琉は笑うと、俺の顔に自身の顔を近付けた。 「去年の指環のお返し、ずっと何にしようか考えていた」 その言葉に俺は息を呑む。 あれは俺が勝手にしたことなのに。 翔琉は違ったようだ。 「考えた結果、神の前で真剣に颯斗への永遠の愛を誓うことにした。いつまでも、颯斗の記憶に遺しておきたいから」 目の前でキラリと光るグレーの瞳に、迷いはなかった。 「――健やかなる時も、病める時も、とかカッコイイことを言おうとしたが、やっぱりやめた」 「え?」 「俺は颯斗のことが“好き”だ。ずっとこの先も一緒にいたい。シンプルにそれだけを神へ誓う」 言い終わるや否や、俺の返事を待たずして深い接吻がされる。 「もしかすると、颯斗に愛されている実感を形で遺しておきたいのは俺の方かもしれない」 譫言(うわごと)のようにキスの合間に洩れた翔琉の本音が嬉しくて、俺からもその首へそっと手をまわす。
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