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クリスマス時期に咲く花といえば、真っ先に赤いポインセチアが浮かぶ。 花弁(はなびら)に見える真っ赤な(ほう)という葉が変形した部分と緑の葉という配色が、クリスマスカラーのように見えるからだろうか。 実際、別名でクリスマスフラワーと呼ばれているらしい。 また苞の赤はキリストの血を、葉の緑は永遠の愛を表しているだとか、いないだとか。 ――案外、重い意味のある花なんだよなぁ。 大学二年生である俺、高遠颯斗は、バイト先である六本木の高級カフェのレジ先に置かれた鉢植えを、独りオープンカウンター前から眺め、そんなことを考えていた。 「高遠君、そんなにじっとポインセチアを眺めてどうしたの?」 三十代前半の物腰柔らかい癒し系の副店長が、背後から声を掛ける。 「す、すみません……綺麗なクリスマスカラーの花だなと思って、つい」 うっかり動きを止めていた俺は慌ててフロアを見渡し、動き出す。 「ポインセチア、そこへ置くと日の光を浴びて綺麗に花が咲くんだよ」 副店長がレジ先へ置く理由を告げた。 「高遠君は、ポインセチアみたいにたくさんの光を、愛を注いでくれる相手とはクリスマスを過ごさないのかな?」 意味深に問い掛けてきた副店長に、俺は困惑して見せる。 今日は十二月二十四日。 クリスマスイブだ。 去年は共に過ごしたが、今年はどうだろうか。 「何だ、高遠。イブだというのに、浮かれるどころか冴えない顔して。まさか、今日は何も予定がないのか?」 午後からのシフトで出勤してきたばかりの三十代半ばの店長が、フロアへ顔を出し開口一番、追い討ちをかけるように副店長と同様のことを告げた。 先に言葉にした罪悪感からか、沈黙した俺を察した副店長が「まあまあ」と店長を軽くいなす。
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