6人が本棚に入れています
本棚に追加
金曜日、午後11時30分。
仕事の疲れをシャワーで洗い流して部屋でくつろいでいると、携帯の着信音が鳴り響いた。
「もしもし?」
私は相手を確認せずに、通話開始のボタンを押す。相手なんて確認しなくても分かっていた。
『もしもし』
電話の相手は付き合って2年と少し経つ彼だ。毎週金曜日のこの時間、彼は決まって電話をかけてくる。
当たり前だけど1週間前と変わらない彼の声にすごく安心する。
学生の頃は昼間に学校で会い、授業終わりには並んで街を歩いて、夜は布団の中で電話をする……なんて生活を毎日飽きずにしていたけれど、社会人になるとそうもいかない。
日々ストレス社会と戦うようになってからは、週に1度電話をして月に1度会えればそれで十分だった。いや、体力的にもお互いの都合的にも、それが精一杯だった。
「今週もお疲れ様」
これは毎週私が切り出す決まり文句。
『うん、おつかれー』
少し眠そうな彼の声もいつも通り。
「…………」
『…………』
話したいことは沢山あるはずなのに、いざ声を聞くと全部どうでも良くなって忘れてしまう。結局当たり障りのないつまらない質問しか投げかけることが出来なかった。
「今週は何してた?」
『うーん、仕事?』
彼もまた、当たり障りのない返答をする。
「だよね……」
『んー……』
あぁ、これで今日も終わりなんだろう。
毎週これの繰り返し。このあとはどちらかが眠ってしまうまで無言電話をして過ごす。
最初のコメントを投稿しよう!