無言電話

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「……ねぇ」  今日は少し疲れているのかもしれない。今週は仕事でトラブル続きだった。取引先とも上手く行かなかったし、上司からのパワハラもいつもより酷かったかも……。  そんな1週間だったから、いつもより疲れているから、ちょっとだけ甘えたくなったのかもしれない。 『んー……?』  いつの間にか布団の中に移動したらしい彼はもう眠そうだ。きっと今から私が言うことも、朝になれば魔法が解けるように忘れてしまうのだろう。  どうせ忘れてしまうのなら、一時の感情に流されてしまってもいいのではないか……? 「……好きだよ」  私からあなたへ、久しぶりにやっと口にした本音。 『…………』  反応を待った。 『…………』  返事は返って来なかった。  耳を澄ますと規則正しい呼吸の音だけが、電話の向こうから聞こえてくる。 「寝ちゃった?」 『…………』  彼はやっぱり何も言わない。  まぁいい。たったの4文字だ。また来週……いや、明日の朝にでも伝えればいいか。  ほんの少しの哀しさと虚しさ、そして胸いっぱいに広がる温かさを抱えて、私は通話終了ボタンを押すことなく眠りについた。 [完]
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