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最寄りの駅に着いた。時刻はもうすぐ深夜1時になろうとしていた。
相変わらずと言っていいほど人気がないので、家まで鼻歌を歌って帰る。最近話題のアニメ主題歌だ。
僕の家は小さなアパートの1階。お世辞にも綺麗とは言えないが、普通に生活ができればそれでいいと思っている。
「ん?」
もうすぐで家に到着するという時、電柱の影から人の脚のようなものが見えた。
極たまにいる酔っ払いか何かだろうか。変に声をかけて絡まれても困る。申し訳ないが素通り___。
いや、違う。酔っ払いのサラリーマンじゃない。
電柱にもたれかかるようにしてぐったり倒れているのは、スーツを着たサラリーマンではなかった。
黒いジャケットを羽織った銀髪の男の人。耳にはピアスが付いている。顔はよく見えないが、酔っ払いサラリーマンって歳でもなさそうだ。
黒いジャケット、銀髪、ピアス……もしかしてヤンキー?!喧嘩別れして倒れてるとか?!だとしたら近づいたらやばいんじゃ…など、僕はお得意の妄想を膨らませる。妄想の中の僕は困っている人を放っておけない男だったが、いざ現実になるとどうしたらいいかわからない。
とりあえず警察…?いやでも、近くの交番おじいちゃんしか居なかったか…。こんな時間じゃ他に人もいないし……やっぱり素通り?
ごめんなさい、と心で呟いて、見て見ぬふりをしようとした時、その心の声が届いてしまったのか、銀髪の男がピクッと動いた。
「………………み、ず…」
最後に振り絞った力を出すように、朦朧とした意識の中で銀髪の男は僕の方を見て、「みず」と言った。
みず…水だ。喉が渇いているんだろうか。
コンビニで貰った、まだ口をつけていないペットボトルの水を男の元において、そのまま通り過ぎればよかったんだ。
…なのに、なんで僕は今銀髪の男を抱き抱えながら家に向かって歩いているんだ?
もしこの男がやばい組織に属していたら、命の大恩人どころか殺されるんじゃ……。
そんなことを考えながらも、とにかく家へ急いだ。
僕が善人になりたかったとか、助ける見返りを求めたとかでは、多分、ない。
衝動的に体が勝手にこの男を助けようとしていた。
朦朧とした意識の中で男が顔を僕の方に向けた時、不意にもドキッとしてしまったんだ。
この銀髪の男、なかなか顔がいい。
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