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「佐々木。お願いがある」
はい、と佐々木が頷く。こいつは察しがいいから、何となく気がついているのかもしれない。
「俺がこの2週間一緒にいたやつのところに行ってくれないか?家の鍵を、返し忘れた」
それは大変だ、と、全く焦った素振りを見せずに佐々木は答えた。
「よろしく言っといてほしい。もう、会えないだろうから」
わかりました、と佐々木は言う。こいつは本当にできるやつだ。佐々木が味方で、心強い。
それでは行って参ります、と言って佐々木は出て行った。これで、海斗と俺を繋ぐものはなくなった。
寂しいか、寂しくないかと言われたら、それは寂しかった。
あの2週間、たった2週間だけど、俺はかなり楽しかった。
家にいて、海斗のためにご飯を作る。掃除をする。話を聞く。海斗は、この家には何もないですって言ってたけど、俺はそうは思わない。
海斗がいる。
俺のご飯をおいしいと笑顔で言ってくれる海斗がいる。
好きにしててくださいね、と笑ってくれる海斗がいる。
いってきます、ただいま、と声をかけてくれる海斗がいる。
「はあ、好きだなあ…」
誰にも聞こえない声を、俺は天井に向けて放つ。
「…海斗も、俺のこと好きかな」
言いかけて、不安になる。こんな、素性の知れない男のことなんて、好きになるはずがない。
「もし好きって言われたら俺……」
「嬉しすぎて、ちょっと意地悪しちゃいそう」
実際、この意地悪に海斗は振り回されることになるのだが、この時のアキラはまだ、その未来を知らない。
END
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