自販機置き場

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自販機置き場

「ねえ、あった?!」 「うーむ……」 「ねえ! どうなの?」 (ああ、うるさい)  そもそも、なんで僕がこんな目に合わなくてはいけないんだ。放課後の周辺清掃が終わったら、すぐに家に帰って、じっくりギターの練習をするはずだったのに。 「あんた、ちゃんと全部確認してよ」 「ええと」 「ちょっと! 聞いてるの?!」 「ああ、もう! うるさいなあ」  僕の名前は新藤大希(だいき)。今年の春から、ここ私立富士屋学園に通いはじめた高校一年生。部活には参加せず、下校時刻になるやいなや、速やかに帰宅して、自室でギターの練習に励むのが、最近の僕の日課だ。  僕の後ろで大声をあげているのは同じクラスの女子、酒井理奈。周辺清掃中に、突然に胸ぐらを掴んできて、なんだか変な言いがかりをつけられて……今に至る。 「なによそれ、あんた何様のつもり?」 「いや」 「あんたが壊したんでしょ?! あたしの“竹ぼうき”を」  そう、確かに僕は、落ち葉拾いの途中でである竹ぼうきを壊した。  ……というより、それは勝手に壊れた。もとい、もともと壊れていた。断じて、故意に破壊したわけではない。僕はジミ・ヘンドリクスでも、ピート・タンゼントでもなく、普通の高校生だ。普通の高校生は故意に学校の備品を破壊したりはしない。 (あと、竹ぼうきは彼女の物ではない。だ) 「僕が壊したんじゃない」 「はあ? 何をいまさら!」  放課後の周辺清掃は、その日の日直の最後の仕事だ。この季節になると、それは始まり、全学年のクラスの日直が毎日、一斉に構内の落ち葉を掃除する。  ここ、私立富士屋学園の敷地内にはやたらとイチョウの木やら何やらが植えられており、秋から冬にかけての落ち葉の量は尋常でない。  そもそもに責任があるはずなのに、僕たち生徒に掃除を押し付けるのは理不尽というものだ。    僕がPTAの会長なら、真っ先に文句を言っていただろう。だが、残念なことに僕はPTA会長でもなく、あくまで普通の高校生だ。ここは従うより他にないのだ。
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