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3.磐長姫命の恋
「榎木田さん。お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
「神谷さんも、お元気そうですね」
そろそろ桜が咲くかという季節。議員の榎木田隆生が俺を訪ねてきた。
『Cafe Path』のテーブルで向かい合っている俺たちに、颯手がコーヒーを運んでくる。
他のテーブルの給仕をしている愛莉が、こちらにちらちらと視線を向けている。
「今日も何かご依頼があっていらしたんですか?」
颯手がキッチンへ戻って行くと、俺は、榎木田さんに問いかけた。榎木田さんが俺を訪ねてくる時は、大抵、拝み屋の方で仕事の依頼がある時だ。
「今日は、君にお札を描いてもらいたくて来たんですよ」
「札?」
「実は、七菜が身ごもったんです」
榎木田さんはそう言うと、照れ臭そうに微笑んだ。
「それはおめでとうございます」
「安産の札などがあるなら、お守りがわりにもらいたいと思ってね。神谷さんのお札なら、効果抜群でしょう?」
全幅の信頼を寄せられ、
「なら、安産の神符を描きますよ」
俺は請け合った。
「良かった」
榎木田さんは、ほっとしたようにコーヒーに口をつけた。
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