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「今の時代、石油ストーブってレアだよな」
アンティークの採集が趣味だった由之の部屋には沢山の代物が所狭しと配置されている。彼の実母が、同じ空間にいることも忘れて、僕と竹屋は友人の秘密を覗いている気分でいた。
由之の部屋は、駅より離れた住宅街のなかにある。
"メゾンコーポラス 7号"
マンションの壁のあちこちに亀裂が走っており、下水配管は土から丸見えになっている。
家賃が安くて汚い部屋と由之は言って、今日まで僕と竹屋がこの部屋に入ることはなかった。
外に出てみれば、近くでビルの建設工事の景色が見える。雑音のなか、由之の部屋のドアは重々しい音を鳴らして閉まる。
「おばさん、警察には?」
由之の母は額に手を当てて悩ましげに眉を寄せる。だが、どこか呆れたような様子も見え隠れしていて、深刻そうには見えない。
「まだ。あの子、こういうことがよくあるでしょう」
言葉の途切れは芯が無いようにふるえている。由之は以前から、突発的に行動する男だった。
急に離島へでかけたり、ピザを食べたいからイタリアに飛んだり。二週間はザラじゃない。
ただ、今回は一ヶ月になる。
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