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結局、角をかけた勝負はつかなかった。三匹同じくらいこんもりと食材をソリに乗せていた。もしかしたら計量すれば違いがわかったかもしれないけど、トナカイにはそこまで考えが及ばなかった。よって、三匹でルドルフの角を分けることに決まったのだった。
そんな感じで仕事をおえてから、ルドルフはサンタクロースに少女のことを話した。
「ふぉふぉふぉ」
人間と遭遇したという一大事なのに、サンタクロースはいつもどおり笑っている。でっぷりとした腹が揺れ、その腹まで伸びた白ひげも揺れた。丸ぶちメガネの奥にある目もいつもどおりだ。小人がワインをこぼしてシミをじゅうたんに作ってもこんな調子だ。優しく細まった目と目尻の深い横しわは頑固なシミのように取れやしない。
「ゆかいゆかい」
サンタクロースはカイが持ってきた肉をカチカチ爪で弾いて楽しみ、プレートに乗せて暖炉のそばに置いた。肉についていた霜は溶けていき、プレートに水がしたたり落ちた。肉は茶色の薪から赤身に変わった。
「いいじゃないかね。明日から手伝いに連れてきておくれ」
よっこいしょ、とサンタクロースは戸棚から箱を取り出した。ブラシや布が入っている箱だ。その箱を持って、待っていたメストナカイへと近づく。
「でも、人間と関わるなって、掟が……」
「猫の手も借りたいくらいじゃからな。猫よりは役立つだろうて」
サンタクロースはルドルフにウインクして、メスの手入れを始めた。
冬の間角が落ちるオスに対し、メスの角は冬の間ついている。ソリをトップで引っ張る花形がこのメストナカイであった。美しい角をより魅力的に見せるために、角は磨かれ、体毛もきれいにとかれるのだ。
けど、大量のプレゼントで重いソリを運ぶにはオスの体力も必要だ。だから、オスは角つきの帽子をかぶってソリを引く。子どもたちがトナカイには立派な角があると信じているから……!
「俺は掟を守ってきたのに……」
ぼそりとルドルフはつぶやいて、大きいほうのドアへ向かう。家裏にあるトナカイ小屋で寝る時間だ。
厚い木のドアを開けると、びゅうっと風と雪が顔を包んだ。家の中の暖炉からパチパチと聞こえていた暖かい音はルドルフの耳から消えた。
なんだか寒かった。厚い毛皮をまとったトナカイはこのぐらいで寒くないはずなのに。
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