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4.柘植の櫛
ようやく全てが終わり日常が戻ってきた。姉のことを忘れてしまうことはできなかったが考えても仕方ない。あまり気にしないようにした。私が殺してしまったわけじゃないのだ。何かの罪に問われるということもあるまい。自分にそう言い聞かせる。
「あ、そうそう、忘れてたわ。お婆ちゃんの遺品だけど、あなたの好きそうなものがあったからもらってきてあげたの」
遺品整理から数日して突然母がそんなことを言い出した。ひどく嫌な予感がする。
「え、なぁに?」
ほら、と言って鞄から取り出したのは柘植の櫛。持ち手には血に塗れたように鮮やかな赤い花が咲いている。
「欲しかったんでしょ、この櫛が」
ニタリと嗤う母。なぜかその顔は血が繋がっていないはずの姉そっくりに見えた。
了
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