3.真実

1/1
前へ
/4ページ
次へ

3.真実

「ああ……。そうね、思い出したわ。どうしてこんな大事なこと今まで忘れていたんだろう」  どうやら私は自分で自分の記憶を改竄していたようだ。姉なんかいないのだ、と。 「あの辺りね、変質者が出るって有名だったの。でも子供のあなたたちにそう言っても理解できないでしょ? だから天狗が出る、なんて言ったのね」  そう、姉はその変質者によって殺されてしまったのだ。 「美咲は悪くないからね、まだ子供だったんだもの。仕方ないわ」 ――違う。  私はすっかり当時のことを思い出していた。姉の顔も何もかも鮮明に。当時私が祖母にした説明はほとんどが嘘だ。母は私たちが仲のいい姉妹だったなんて言うがそれも違う。私は姉が大嫌いだった。姉も後妻の子である私をひどく憎んでいた。あの櫛をもらった時も姉は私に嫌がらせをしてきたものだ。 「見てよ、これもらったの。父さんから」  姉は父からもらったのだという柘植の櫛を誇らしげに掲げる。父は前妻の子である姉を猫可愛がりしていた。後妻である私の母のことも、その母にそっくりな私のことも愛してなどいなかった。私に与えられたのはプラスチックの安物の櫛。 「お姉ちゃん、ちょっと貸してよ」 「いやぁよ、あんたの髪なんか梳いたら櫛が腐っちゃう!」  アハハ、アハハと姉は嗤う。  天狗の祠に行った時だってそう。姉は私を怖がらせようと無理矢理引っ張っていったのだ。だから仕返しをした。ちょっとした仕返しを。私は木陰に男が潜んでいるのを知っていた。だから一人で帰ってやった。姉から櫛を奪い全速力で駆けたのだ。案の定姉は男に捕まった。指にズキリと痛みが走る。櫛を持った時についた傷だ。あの櫛には姉の怨念が宿ってでもいるのだろうか。それで祖母は死んでしまった……。そんな馬鹿な、と苦笑する。  祖母の葬儀が終わると、主を喪った家は解体されることになった。何日かかかって遺品を整理する。私もそれを手伝った。 (ない……)  どこを探してもあの櫛は出てこなかった。祖母が処分してしまったのだろうか。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加