聖夜

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聖夜

『二人で過ごす、初めてのクリスマスなんだぞ。』 スイートルームに泊まったあの日、青島にクリスマスの予定を聞かれて、特別なことは何もしなくていいと答えた未来(みき)に、青島は不満そうに言った。 それでも金子の会社に、青島自ら出向いて話をしてきたと聞いて、お礼を兼ねて田村の店で食事がしたいとお願いすると、青島はすぐに電話を入れてくれた。 いくら中華料理店とはいえ、クリスマス直前の予約は難しいと思ったが、25日なら席を用意できるということだった。 「25日に、お店で待ち合わせしましょう。」 電話口で未来がそう言うと、イブの日に仕事が終わったら迎えに行く、と青島は一方的に言って、電話を切ってしまった。 『今日の夕食は準備しておきます。』 あまりに可愛げがなかったかもしれないと反省した未来は、青島にメッセージを送ると、朝から買い物に出掛けた。 空はすっきりと晴れていたが、夜は雪の予報が出ていて空気はピンとして冷たい。 街を歩きながら目に留まった、セール品の小さなクリスマスツリーを飾ると、炬燵のある和室でもそれらしくなって、未来は携帯のレシピを見ながら、料理を作り始めた。 つくづく器用ではない自分自身に呆れながら、破れてしまったキャベツを2枚重ねて巻いた、不恰好なロールキャベツがお皿に並んだ。 今から向かうとメッセージを送ってきた青島は、普段よりも時間が掛かった様子で、訪ねてきた。 「さすがクリスマスだな。渋滞が酷い。」 「仕事帰りにすみません。寒かったですか。」 青島のコートをハンガーに掛けながら、未来は聞いた。 「ああ。予報通り雪が降るかもしれない。恋人のいるイブだっていうのに、一人凍えてホワイトクリスマスを迎えていたかもしれないな。」 青島の言葉に、未来はだって…と反論する。 「私は年内の仕事が殆ど終わっているからいいんですけど、社長は28日まで仕事がありますし、明日でいいかなと思ったんです。」 「イブは特別じゃないのか?そうでなくても、俺は毎日会いたいと思っているのに。あと、いつまで社長と呼ぶつもりだ。」 んーっ、と困った顔を見せた未来は、座って下さい、と言って青島に背を向けると、食事の準備を始めた。 質問をはぐらかされた青島は、おたまやお皿で両手が塞がっている未来の肩に手を置くと、髪を結んで露わになっている耳に息を吹きかけるようにキスをした。 「もう、危ないですよ。」 体をよじるようにして逃げる未来の手元を見ると、鍋から湯気が上がっている。 「ロールキャベツ?作ったのか?」 「一応…。初めて作ったんですけど、キャベツが破けてしまって重ねて巻いたから、しっかり煮込もうと思っているうちに、くたくたになっちゃいました。」 「おいしそうだ。」 皿によそったロールキャベツを、スーツ姿の青島が炬燵の上に並べているのは、何とも言えない不思議な光景だった。
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