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「やっぱりまだ、社長が私の家で夕食を食べるというのは馴れないですね。」
向かい合って座りながら、何の気なしに言う未来に青島は目をやってから、いただきます、とスプーンで簡単にほどけるくらい煮込まれたロールキャベツを口に運んだ。
「おいしい。くたくたも悪くない。」
満足そうな青島の表情に、ほっとした未来も食べ始める。
「わっ、凄い。おいしい。」
驚いた顔で、自分が作ったロールキャベツを食べる未来をおかしそうに見ながら、青島は言った。
「和田に、俺たちのことを話した。」
突然のことに、未来は食べる手を止めて、青島の顔をまじまじと見つめた。
「…そうですか。驚いていたでしょうね。」
「叫んでた。でも最初だけだ。二人を知る人間なら、納得するんじゃないかと言っていた。」
「そう、ですか。」
歯切れの悪い未来が気になりながらも、青島は言葉を続けた。
「相手が俺だと、一見お前が大変そうだが、実際は逆だろうと言われて、その通りだと答えておいた。」
未来は上目遣いで、青島を睨んだ。
「どう考えても、私が社長に太刀打ち出来るわけないのに。」
「それだ。まず社長と呼ぶのをやめろ。いつまでたっても距離が縮まらない。恋人としてそばにいる俺に馴れろ。」
「だって社長は、私のこと名前で呼ぶ必要ないですもんね。お前って言えば済みますから。それだって今までと変わらない。」
そう言われた青島は、食事をする手を止めて、正面に座る未来を見つめた。
「未来。俺はもう何度だって呼んでる。口に出さなくてもだ。」
未来は唇を噛むと、やっぱりずるい、と呟いてから、ふと真剣な顔になって青島に言った。
「金子さんの件、ありがとうございました。」
電話で話は聞いていたが、あれから顔を合わせたのは今日が初めてだ。
「ああ、もう心配ないだろう。和田が一緒で良かったよ。殴らずに済んだ。」
青島の言葉に驚いた未来は、慌てて言った。
「殴るなんて、そんなことしないで下さい。社長が悪者になるなんて駄目です。」
青島はふっと笑って未来を見ると、真顔で言った。
「お前は十分魅力的な女性で、近付いてくる男もいる。これからはちゃんと自覚して用心しろ。」
未来は口をへの字にしたかと思うと、途端しょんぼりと言った。
「私ってそんなに思わせぶりですか?社長とつき合っていることを、和田さんがすんなり納得するくらい。」
未来の気がかりの原因を察した青島は、かぶりを振って答えた。
「そんなことはない。ただ私なんかと卑下して、男が寄ってこないと思っているのは間違いだ。そこが付け入る隙になる。」
未来は気をつけます、と返事をすると何かしら思い直して青島を見た。
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