聖夜

3/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「社長も、これからは用心して下さいね。言い寄ってくる女性は、私と比較にならない程いるんでしょうから。」 思わぬ形で矛先を向けられた青島は、それには答えず、ごちそうさま、と言って立ち上がり、空になった皿を台所に下げた。 目の前がぽっかりと空いたままで、急に寂しくなった未来が振り返ると、台所のシンクに持たれたまま、じっとこちらを見つめている青島と目が合った。 「ごめんなさい。急いで食べます。」 「違う。ゆっくりでいい。」 そう言って戻ってきた青島は、再び未来の向かいに腰を下ろした。 「おいしかったよ。ありがとう。」 青島の優しい眼差しに、未来は安心したように笑顔になった。 しかし、ゆっくりでいいと言われたものの、食べるところを正面から見られているのは落ち着かず、未来は食べるペースを少し上げた。 そして未来が食べ終わるを待っていたかのように、青島はおもむろに口を開いた。 「未来。一生とか永遠とか、そんな思いや言葉は何の意味もなさないことを俺は知っている。確かに、お前のことを好きになったのは、俺自身、思いもよらないことだった。」 「ただそこにいるだけで、たまらなく愛おしいと思う。その肩に他の誰かが触れたと聞くと、どうしようもなく嫉妬する。」 尚も話し続けようとする青島に向かって、未来は思わず待って下さい、と両手で制した。 「社長、どうしたんですか。急に。」 頬を赤らめて困った顔をしている未来に、青島もまた戸惑いを見せた。 「お前がおかしなことを言うからだ。俺も何を焦っているんだろうな。もどかしいな。」 額に手をやりため息をついた青島に、唇を引っ張って笑顔を見せた未来は、立ち上がった。 「これ片付けちゃいますね。もう少し待ってて下さい。」 青島は、無理矢理作ったそんな笑顔には気が付かないふりをして、未来の背中を見つめた。 FMからクリスマスソングが流れているのが微かに聞こえる車内から、窓ガラスに水滴が残るのを目にして、未来は空を見上げた。 「降ってきたな。」 はい、と返事をした未来は、雪にも氷にもなりきれない小さな結晶が、窓に張り付くのを見ながら、ぼそっと言った。 「社長、私が相手だと物足りないでしょう。」 「意味がわからん。」 青島は降り始めた霙に、ハンドルを慎重に握りながらすかさず答えた。 「さっきは話を遮ってしまって、ごめんなさい。仕事では社長の思いに応えたいって必死になるんですけど、二人のことになると同じようにはいかなくて…。社長がため息つくの見たら、呆れているんだろなって思ったんです。」 だからと言って、どうしたらいいのか分からず、未来は口をつぐむ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!