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クリスマスの朝、青島を見送った未来は、初めてひとりマンションで過ごすことになったのだが、主のいない部屋は落ち着けず、時間が過ぎるのが遅く感じた。
夕方マンションを出ると、まだ不慣れな青島の通勤路を辿って、仕事終わりの青島と落ち合った。
店に着くと、見慣れたエントランスには、クリスマスツリーが飾られ、普段とは違う雰囲気で心が躍る。
笑顔で出迎えてくれた田村に、未来は恐縮した。
「先日は、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。今日も席を用意して下さって、ありがとうございます。」
頭を下げた未来に、田村は心底安心したように首を横に振った。
「相手の方と話がついて良かったです。今日は楽しい時間をお過ごし下さい。」
田村はにこやかに言うと、フロアにいた王に声を掛けた。
「イラッシャイマセ。」
足早にやってきた王は、青島と未来に向かってうやうやしく頭を下げた。
「王くん、この間はどうもありがとう。お礼を言うのが遅くなってしまって、ごめんなさい。」
「ミキサン、ダイジョウブデス。ボクモ、イソガシカッタカラ、アエナカッタデス。」
「私からも礼をさせて下さい。君が気づいてくれて本当に助かった。ありがとうございました。」
青島が丁寧に頭を下げるのを見て、未来は驚くと同時に目が潤む。
そんな青島に、王は笑顔を向けた。
「イツデモ、タスケマス。ミキサンノコト、タイセツニシテクダサイ。」
青島は少し驚いたような顔を見せたが、すぐに笑顔で頷いた。
テーブルに案内されて、王がサービスを担当してくれる。
王が働いているのを見るのは、未来にとって初めてのことだったが、立ち振る舞いはスマートで絵になった。
女性客の殆どが、その姿を目で追っているのが分かって、大変そうだなと思いながらも、微笑ましい。
そんな王が運んでくれる料理は、相変わらずとても美味しくて、さりげないクリスマス仕様の盛り付けは美しかった。
「とてもいいクリスマスになりました。ごちそうさまでした。」
田村と王に見送られ、とても満たされた気分で店を後にした二人は、マンションに帰った。
「あの、これクリスマスプレゼントです。」
マンションに戻ってきた未来は、青島に細長い包みを差し出した。
「何もしないでって言ったのは、お前だぞ。俺は素直に言うことを聞いて、プレゼントは用意しなかったのに。」
「社長からは、もう頂きましたから。」
未来は右手を広げて見せた。
全く、と言いながらも青島は嬉しそうだ。
「ありがとう。開けてもいいか?」
「使い慣れたものがいいのか迷ったんですけど、使っているのとは違うブランドにしてみました。」
箱を開けると、濃紺のボールペンが入っていた。
「大切に使わせてもらうよ。」
青島はそう言うと、未来を抱き寄せた。
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