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崎浦がおとなしくなったところで、胸ポケットから名刺を出す。
「川瀬メンテナンスサービスの崎浦くん、私、こういう者です」
崎浦は、その名刺に印字されている名前と俺の顔を何度も見比べて、何が何だかわからないという顔をしている。
「今夜、俺に会ったことをトーコに話したら、おたくとの契約、全部引き上げるからね?」
微笑みながら静かに告げて、燈子を横抱きにした。
ぐっすり眠るかわいらしい顔を間近に見るのはいつ以来だろう。
あの頃よりも燈子の体はさらに軽くなった気がする。
そのままビルの3階の部屋まで燈子を運び、ベッドに寝かせた。
目を覚ましてくれないだろうかと少し期待したが、燈子はぐっすり眠っている。
前髪を上げて、額にそっとキスを落とすと部屋を出た。
燈子、あと少し……あと少し待っててくれ。
もうすぐ堂々と迎えに行くから―――。
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