愛しいきみへ タケルside

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 俺の実家は代々この橘町一帯に土地を持つ地主で、町のはずれに大きな家もあるが、俺は特段「お坊ちゃま」として育てられたわけでもない。学校も高校までずっと公立校だし、爺さんが生きていた頃は八木というお目付け役が目を光らせていて、むしろ厳しく質素倹約で育てられた。  その爺さんがコロっと急死して父親が家業を継ぐと、相続税対策がどーのこーのと言い出してあちこちの土地やビルを売却した後に俺に無理やり会社を押し付け、両親は海外へ移住してしまった。  もう日本に帰ってくる気はないらしい。    俺も父親もともに放蕩息子。  そういうことなら俺だって好きにさせてもらおうと決心した。  会社の事務は八木にすべて丸投げし、俺の代で畳もうと思っていた会社だったのに、まさかこんなことになるとはな。  燈子のことを「かわいらしいお嬢さんですね」だの「燈子さん、ヘアスタイルを少し変えましてね、ますますかわいらしくなりました」だのと、目を細めて語る八木には腹が立つが、感謝もしている。  強引にやりすぎて危ない時もあったが、どうにか持ちこたえて会社はさらに飛躍した。  たまにユウのバーの奥にある個室で燈子の親父さんに会って、経営のアドバイスや「あの会社とは取引しないほうがいい」というような裏情報も教えてもらった。  そうしてもらえているうちは、燈子の将来の伴侶の候補のひとりであると思ってくれているんじゃないかという気がして、そのありがたい助言を胸にさらに頑張った。  一度ユウに「このバーをオレンジモールのほうに移転させて従業員も一新するから、俺の秘書になってくれないか」と打診してみたことがある。  その当時は事業拡大で人員が足りなかった。信用もできるし仕事もできるから適任だ!と本気だったんだが、ユウはそのときたまたま手にしていたアイスピックを俺の顔に向けると 「タケ、どこを刺されたい?」 と、これまで聞いたこともないような低い声で静かに凄まれたために、その話は立ち消えとなったのだった。  
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