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オレンジモールのオープンを3か月後に控えたある日、相変わらずこの日も朝から晩までタイトなスケジュールで奔走していた。
夕食込みの会合を終え、事務所に戻って残務処理をしようとタクシーで移動していたときにユウから着信があった。
『ねえ、トーコちゃんがチャラい狼に食べられそうになってるけど、どうする?』
「はぁ?」
『ほっといてもいい?』
「ダメに決まってるだろう!今すぐ行くから引き止めとけ」
思わずスマートフォンを握りつぶしそうになる。
運転手に行先変更を告げ、火急の要件なのでなるべく急いでくれとお願いした。
バーに駆け込むと、カウンターに突っ伏して寝ている燈子がいて、その横に燈子の背中やら髪やら腰をべたべた触りまくっている活きの良さそうなチャラい狼がいた。
「燈子さん?タクシー呼ぶんで、一緒に帰りましょう。燈子さーん」
「結構だ。トーコは俺が連れて帰る」
燈子の体を触りまくる手を振り払うと、チャラい狼は驚いて俺を見上げた。
「ちょっ、誰ですか、あなたは」
「お前こそ誰だ」
「俺は、燈子さんの後輩の崎浦です。燈子さんと一緒に仕事をしていて、今日も朝からずっと燈子さんとふたりで仲良く過ごしました。ですから怪しい者ではありません」
胸を張りドヤ顔で自己紹介するチャラい崎浦にムッとしていると、カウンターの向こうから笑い声が聞こえた。
「タケったら、顔が必死すぎ」
「何言ってんだ、俺を呼んだのはお前だろうが。トーコに酒飲ませたのか?」
「やだ、飲ませるわけないでしょ。ノンアルコールなのに寝ちゃったの。かわいいわよね」
「ええぇぇぇぇっ!?」
崎浦のマヌケな声が響く。
「タケって、あなたがタケルさん!?……燈子さん! タケルさんが来ましたよっ! 燈子さん、起きて……もがっ」
大声で燈子を起こそうとする崎浦の口をふさいだ。
「黙れ、コラ」
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