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恐る恐る僕はベットを降りて、床に落ちた血の痕跡を追ってみた。
ゆっくりと、赤い血が示す方向へと薄暗い家の中を進んで行く。
それは、僕の部屋から台所へと続き、狭い廊下を案内するように点々と続いている。怖さで立ちすくむ僕。
血の跡は風呂場の扉へと続いていた。
閉じた扉の下に大きな血だまりが半部だけ見えているのだ。
開けるべきかどうか悩む僕。音を立てないように慎重に扉の前まで来た。
手を伸ばし、扉を開けいうとするが、手が止まる。
薄っすらな磨りガラスの向こうに、何かあるのが見える。風呂桶の上には平たいフタがあるが、そこに良くわからない何かがあった。多量の血痕……?
僕の恐怖心をあおるのには……十分すぎた。
中にあるものが何なのか、知りたくない。ただ怖いんだ。
なら、見なければいい。そうさ、見なければ良いだけだ。
臆病者でもいい。この危険から離れる方が、今は正しい気がする。
でも……あの部屋まで戻れるのか……?
もし風呂の中にいる物が殺人犯だったらどうするんだ。
ここまで来たのに確認もしないのか。
しかし、生存本能が勝るのは当然だった。
僕は風呂場に注意しつつ、背後に移動しようと左足を動かした。
その時だ。カサカサと言う聞き慣れない音が風呂の中から聞こえて来た。
思わず僕は叫びそうになったが、とっさに両手で口を押さえたので声は……漏れなかった。
それに微かだが浴槽内にうずくまる影が動いたようにも見えた。
やはり人なのか。額に冷や汗がにじむ。
だが、今の音は変だ。虫が這うみたいな感じだった。人間ではないのか。嘘だろう⁇
「冗談、キツくねえ……これって……」
またカサカサと……音がする。
ビクリとする自分と同時に、眉間にシワをよせる僕は決意する。このままではらちがあかない。ハッキリとさせよう。この中に何があるのかを……。
勇気を出して扉に手をかける。ガラガラと嫌な音を立てる横開きの扉。
僕はソ~と……風呂場を覗き込む。
「なっ、何だ……これは……」
そこには想像を絶する……人間の刻まれた肉片の山が……あったのだ。
もう固まっている多くの血と……切られた手や足。
黒い髪にまとわりついている眼球や耳の残骸。ダラリと長い紫色の舌と顎だけがちぎれて、浴槽の端に引っかかている。
異様な悪臭が漂う風呂場は……バラバラ死体のゴミ捨て場……となっていたのだ。
ウジがわき、足元に寄ってくる。
気持ち悪い得体の知らない昆虫どもが……人間の指や手首の切れ端を……チマチマとつつき回しているのが見えた。
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