出会い②

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出会い②

その出会いは偶然なのか、必然なのか はたまたその不思議な能力同士は何か特別な力で、そのお互いを引き合わせる力があるのかどうか 世の中に運命とか宿命とか言うものが本当に存在するのか その真相の程はよく分からない でもその不思議な、ちょっと人とは違う能力を持った者達は、この先それぞれお互いの存在を知り、出会う事となっていく事となる 敬太はこの間、青山の事故現場で見たその、少し奇妙な経験と、その場にいた一人の男の、何かその不思議で奇妙な行動を目撃し、何か変な、いや、嫌な、と言っても良いだろう、兎に角、そんな予感がしたので、その男の事をその後、実は付けて行ってその行動を監視していたのだった そして、やはり、その不思議な男はその日の夜もまた奇妙な行動をしていた 敬太にはその男の、周りが誰一人として気付かない様な彼の小さな呟きさえ、一部始終が頭の中にハッキリとした呟きとなって聞こえていた その夜、その男は恵比寿のレストランバーで、 あの彼の後ろの席で騒いでいた若いサラリーマン連中の一人の男の頭の中に、ある声を送り届けていた そして敬太は、その男のその声は、あの酔っぱらって半分意識が朦朧としていたサラリーマンの彼の行動を、あたかも操作する様に影響させていた事を確信した そしてまた、恐らく、いや確信を持ってその日の昼間に見たあの交差点での車の事故も あの男の発した、他人の頭の中に侵入する事の出来るその叫び声によってもたらされた事だと確信していた 白いワゴン車を運転していたドライバーは、不意に頭に響いた突然の叫び声を、咄嗟に自身の身に迫る危機と感じ、気が動転し、急激なハンドル操作をしてしまった事で、車が横転してしまったという、その男の悪意から来る行為によって、故意に引き起こされた事故だったのだろう あの男は端(はな)からそれを計画、予測して、あの場所で待ち構え、あのスマートフォンでその始終を撮影をしていたのであろう そしてそれこそが、あの現場で事故をわざわざ起こさせた目的であったろう 自分以外にも人とは違う不思議な能力を持っている者がいるんだ! だがそれは敬太にとって驚きではあっても、今、決して沸き起こって来るのは嬉しさでは無かった 敬太は小さな時から他の誰よりも正義感に溢れ、常に清廉潔白、弱きを助け強きを挫く、清く正しく美しい、人にその人生の全てを誇れる様な生き方をしてきたかと言えば、決してそんな事は無い、人としてごくごく普通の人生と、ごくごく普通の生活を過ごしてきた男だった だが、自分のその、人とは少し違う、普通の人には持って無いと思えるこの能力に気付いた時には、直ぐに何かコレを人の役に立つ事に使えないだろうかと考えた それは敬太が幼い時にテレビで見て、憧れたヒーローや正義超人とかが思い起こされたからだ だから、彼はもし自分と同じ様に、人とは違う少し特殊な能力を持った者なら、その力を何か人の役に立つ事に使う事になるだろうと勝手に想像していた だが、自分が出会ったたった一人の、その特殊能力の持ち主である彼はその能力を自分の為に使用していた その事は、自分と同じ様な特殊な能力を持っている事で、その人とは違うその才能を共感し合い、その能力の使い道に於いて今後どう使うべきか相談し合う様な間柄ではなく、 逆に彼を警戒し、この先その動向に常に注視し、もし何か行動を取ろうものなら、それを自分は阻止しなければならない そういう事を意味しているだろう 敬太はそんな思いに駆られていた だからその恵比寿での出来事の後も、敬太は更に彼のその後を追い、行動を監視した 男は恵比寿のレストランバーから15分程歩いた所で一つの数階建てマンションの中に入って行った 入り口はセキュリティドアで仕切られていた為に中まで入って部屋番号までは確認出来なかったが 敬太がそのマンションの入り口へ男が入った事を確認し、暫くそのマンションを外から覗いていると、二階の右端の明かりが灯ったのでどうやらそこが住まいであろう事が想像出来た 敬太はとりあえずそのマンションのある住所をスマートフォンで地図検索して調べてその場所をマークしておいた その後、ウチに帰り、「青山 横転事故」というワードでインターネット検索して彼の撮った動画が何処かで投稿されていないか調べると、人気動画サイト『UP Video』内でその動画は投稿されている事が分かった 投稿者の名は「stalk」 その動画チャンネル名は「shocking hunter channel 」とあった そのチャンネル内では、投稿本数自体はそれ程数は多くは無かったが、 幾つかの動画映像が公開されていた 敬太はそのチャンネルの動画を一つづつ開いて見ていった 道を歩いている人を後ろから撮っている 映像 撮影者は、ある人の後ろ姿を捉えており、その後ろ姿の写っている人が歩きながら途中、不意に誰かに声を掛けられたみたいに後ろを振り向くが、後ろには誰もそんな人は居無い、その人は おかしいな? という素振りを見せてまた歩き始めるが、また誰かが呼んでいるかの様に振り返り、辺りをキョロキョロする そしてやはり誰も呼んではいない事を確認するとまた、歩き始める、そうするとまたビクッとした様に立ち止まり、また周囲キョロキョロをと眺める その何度も振り返る様が酷く滑稽に見える様な動画だった 又は、公民館か何処かのホールと思われる様な、何事かの行事が開催されている講演会の中の映像 撮影者も傍聴者として席に座っているらしいが、会場とその講演の様子が、後ろの方の席から前の方の席と壇上をその範囲として映像は捉えられている 講演者が壇上で淡々とその講演内容を話している中、突然、その傍聴者の中の一人が「はいっ!」と言いながら起立する 一瞬静まり返った会場は、後に何処からか始まった一人の笑い声に端を発し、吊られたかの様に大きな波となって次第に全体が爆笑に包まれていく 自分でも戸惑いながらも恥ずかしさにその場で頭を掻くその傍聴者(プライバシー保護の為に顔にモザイクはかけてあったが)、困った素振りを見せる講演者、何とかその空気を制し、講演会を続けようとするスタッフ達の様子 クスクスとまだ余韻を引き摺る様な会場内全体の様子 昼時だろうか賑やかな繁忙時間帯の喫茶店の映像 ワイワイと賑わった店内の中を店員さんが忙しく行き来している 誰からか呼ばれたのだろうか、店員さんが「はーい」と言いながら厨房から店内に駆け出てくる すると誰も呼んだ素振りも無い様で 店員さんは「おかしいな」と首を捻り、また厨房へ入っていく 今度はその手に料理の皿をお盆に乗せて出て来てテーブルに料理を配膳している所で、また 「はーい」 と言って周囲を伺うが やはり誰も呼んだ様な素振りが無い そこでまたその店員さんは 「おかしいな」といった風に首を傾げる そしてそのままその店員はお客が去ったテーブルの皿や、グラスを片付け始める するとまた、誰かに声を掛けられた様に 身体をクルリと捻ったまま、身体を起こした為に、手に持っていた、グラスや、皿を ガシャガシャーン! とひっくり返して慌てる店員の様子 そんな日常の何か面白い、偶然捉えられた様子の映像が並び それぞれにそこそこの再生回数か付いていた それらの投稿の上段に位置している最新の映像順の中に、この間の映像がアップされていた 『青山で車横転の大惨事!!事故の一部始終を捉えた!』 というタイトルが付けられてあった ほんの二日前に投稿された映像にも関わらず かなり衝撃的な映像であったせいか もう既にかなりの視聴回数がカウントされていた それに伴い、そのコメントの数もまた多く 「コレを最初から撮影していたなんて凄い偶然!神か?予知能力者か?」 「奇跡的映像!」 「イブニングニュースで流れてましたね!見ましたよ!」 「衝撃映像番組に出せますよ!」 などといった盛り上がったコメントで溢れかえっていた 敬太は尚もその中のその他の動画のタイトルを眺めていくと その中でも一番再生回数の多い動画のタイトルが、『町田駅ホーム内で自○騒ぎ⁈』であった 動画を再生すると 恐らくそこはJR線町田駅のプラットホームと思われる映像から始まっていた 時間は平日の朝のまだ早い時間だろうか? 周りにはサラリーマンと思われるスーツ姿や学生服が見られるが、朝のラッシュピーク時よりはまだそれほど混雑はしていない 撮影者は自分のプラットホーム側より反対方面のプラットホーム全体を映している 反対に立っている人達については、そこは上手く加工されていて顔の部分にだけモザイクが掛けられている 映像はそこで、ゆっくりと一人の学生服を着た男の子をフォーカスしていく 顔にはやはりモザイクをかけているが、その彼は手に鞄を持ちながら立ってはいるが少し右に左に体がゆらゆらと揺れている そしてホームには下り電車の到着を告げるアナウンスが入る 尚も映像はその反対面に立っている学生服の彼を撮っている 先ほど右に左にゆらゆら揺れていた彼が、今度は前後にゆらゆらと揺れる様になった その体の揺れは徐々に大きくなっていく様に見え始めると、彼が前に大きく揺れたと同時に、今までその位置は変わらずに揺れていた体が、大きく揺れた勢いで、ググッ!と前にのめり、そして彼の足が一歩前に出た そして次の揺れの時には更にもう一歩、 その時。彼の足と体は既にホームの黄色い点字ブロックの内側に入っていた 『パーーーーーン!』 電車から発せられた警告音がホームに響いた それでも彼の揺れは止む事無く、ユラユラから、フラフラに変わって更に大きくなっている その揺れに堪えきれずに彼の足がもう一歩前に出て、ホームから外に飛び出そうかとしたその瞬間、 咄嗟にその彼の危険を察知したのであろう、後ろから近くにいた女性の体が彼の体を、グッと掴み後方へ引き戻した 『パーーーーーン!!』 という先程と同じ警告音と共に画面の中に電車がフレームインしてきて 『キュキュキュキュキュッ!!』 という急ブレーキ音を発した 電車が入った為に向かい側のホームはその後どうなっていたのかまでは写されていないが、電車は停止し、何事か⁈ と騒然とするホーム内、 やがて 「電車が急停車して申し訳ございません ただ今原因を調査しております」 とのアナウンス、そして依然としてザワザワとするホーム上の様子が映っていた 偶然その様子が捉えたとしたのなら あまりにも一部始終撮られていてタイミングが良過ぎる その動画のコメントも 「タイミング良すぎ!」 「スクープ映像!」 「投稿者は予見していたのですか?」 「見聞色の覇気の使い手でしょ⁈」 「女性の判断ナイス」 「女性グッドジョブ!」 「男の子無事?で良かった!」 などのコメントで溢れていた 敬太はこれらの映像を順番に再生して見ていきながら、少しづつ寒気を覚えていった この撮影者は恐らくこの間出会った男 そしてもし、もしもあの男が人の脳の思考の中に直接入り込むことが出来て、その相手の思考を操り、彼の意のままにその行動を操作出来るのだとしたら この一見自殺騒ぎにも見えるこの事故も 彼が動画撮影を目的として意図的に引き起こしたのではないか? そう思えた、いや、そうで間違い無いだろうと、半ば確信して来ていたからであった まだコミカルで済む様なエピソード程度なら他人の身体まで傷をつける事は無い だけどあの青山の交差点での事故、この町田駅でホームでの事故 彼が人の意識を操作し、たとえその人が死ぬことすら厭わない、などというこんな行為をして良い筈がない そう、今ここで思い返せば、あの青山の交差点の事故の現場で、彼がその様子を撮影していた時、彼は笑みさえ浮かべていたのだ! 敬太はその記憶を蘇らせた事で、ゾクッ!と背筋に肌寒い物を感じた 恐らく彼は敬太と同じ様に普通の人は持っていない能力がある そしてその能力の使い方は敬太よりもずっと長けていて、自分の能力の影響範囲を知り、影響の与え方を知り、それを使いこなす術を持っている だが彼は彼を仲間だとか、同志だとか決して思えない 彼は自分とは違う恐ろしい男だ 彼の能力が恐ろしいのでは無い 彼の能力の使い方が、 恐ろしいのだ
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