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第三話
「ほら。いるぞ。かつてのお前が」
オレの背中のリュクから顔だけ出しているにゃんこ先輩が見つめる先には
あの一人を苛める小学生4人だった。
にゃんこ隊長。
息が首筋にかかって妙な気分だよ。
背中あったかいぬくもり。
「オレにどうしろっていうんですか」
「いいからもっと近寄ってよく観てみんしゃい。よおく相手の存在に集中するんじゃにゃん!!」
教えの通りにした。
一人の子供が訝しそうにこっちを見た。
まあ。小学生からしたら中二のオレは大人だよな……
「なんだよ、おっさん。なんの用だよ。きもーネコしょってるぜ」
「わーほんとだあ。きもー」
キモイ キモイ の大合唱が始まった。
ーーーこいつ!!
最初に声を挙げた子供を睨む。
あれ。あれれれ??
視界がぼやけて白い霧が立ち込めて来た。
教えられた通りにやってみる。
アスファルトに片膝をつき俯いた顔をあげると同時に両腕をバシッと空気を切り裂き右を指しながら
ーーーーEnter!!と叫んだ。
来た。
映像が浮かんで来る。
「………君は、君は、安達健太、君?小学四年。君のお兄さん三人いるね。そうかあ。いつも余計モノ扱いかあ。お父さん酷いね。酔っぱらうとお母さん殴るって。めちゃくちゃだね」
細い眼の吊り上がったその小学生の眼が段々見開かれてゆく。
「そっかあ。君のおねしょが治らないのは君のせいじゃない」
一緒にいた友達の注目が安達健太に向いた。
「うそー健太マジ寝小便かよお」
「こいつ知り合いだったのかあ」
「マジかあ」
真っ青になって呆然とオレを見ている。
それから隣の太っちょの男の子を観た。
「おお。凄いなあ。野原真一君。君は凄い。将来が楽しみだ。きっと大物になれるよ」
もうこの時点で野原君は震えだした。
「何で。何で。僕の名前知ってるの?」
オレは出来る限りの陰険な声音で彼の耳元に囁いた。
「お姉さんのタンスから盗んだパンツやブラは返しておこうね。窃盗犯で捕まちゃうよ」
にやりと笑ってやった。
「警察に行こうかなあ。どうしよう。一緒に自首しようかあ」
うわあああああ……安達君と野原君が走り出した。
めちゃくちゃに走った。
「ああ。待って!待ってよお。竹ノ内君と山田君、まだだよお。待ってえええ」オレは叫ぶ。
日焼けして真っ黒の竹ノ内君と
上背のある山田君が同時に振り向き息をのんで立ち止まった、が直ぐに走り出してみんないなくなった。
「ああ……にゃんこ隊長。
なんでしょうね。コレ。あの子達の名前とか場面が勝手に浮かんでくる。
リアルに。どうもみんな当たってたみたいだったよね」
「相手の何もかもが透視できる力じゃにゃん。まあ。テストは成功というところかにゃん」
「はあ。これってなんか意味ありますかねえ。
もっと敵をバッサバッサ切り倒す剣とか。
魔法の杖とかでみんなをゾンビに変えちゃうとか。
どっか昔のヨーロッパの皇子に生まれ変わるとか……」
「煩悩で凝り固まってんにゃぁ」
袖を引かれた。
「おじさん。ありがとう。ぼく。ぼく。助かりました」
はああ!?
また、おじさん!!?!
オレ中二なんですけどー
二十歳でさえもないんですけどー!!
「おまえ。ずっとイジメられてたな。駄目だぞ反撃しなくちゃ」
「はい!」
うるうると輝く瞳は睫毛が長い。こういう子を美少年ていうんだろうなあ。
「もう。帰れ!ママがアップルパイ焼けたって待ってるぞ!
バイオリンの発表会来週だろ。
ガンバレ少年!目指せ優勝!海外留学でもして、何とか管弦楽団入って
ビックになったら必ず今日のお礼を持ってこい」
「はい!おじさん、がんばります。きっとお礼持って来ます」
「走れ!!」
ランドセルをカタカタいわせて駅前の方角へ駆けて行った。
人混みに紛れるまで見送った。
「役に立つ力だにゃん」
「うん……でも。何で?おじさん?老けてる?そんな?そんな?そんな?」
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