第五話

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第五話

起き上がろうとしたら腕に違和感があった。 点滴の針があった。 輸血されている。 オレは病院のベッドに寝ていたのか。 そんなに出血が酷かったのかと驚く。 昨晩は腹ににゃんこ先輩がいたと思たんだがなあと辺りを探すがいない。 どうも一人部屋だ。 ここはどこの病院だろうか?えらく豪勢なホテルみたいだ。 もう大丈夫だ。 起き上がってはみたものの、点滴の針を自分で抜くのは怖いと思った。 一度やってみたかった、ナースコールのボタンを押してみた。 できればピンクの制服の若い看護師さんがいい。 期待して待っていた。 ドンと鈍い音がして大きなスライドドアが開けられた。 「大丈夫かい?」 「斎藤!ここ。まさか、おまえんとこかあ」 「そうだよ。君憶えてないの?救急車で運ばれたんだよ!」 「やっかいかけたな。もうオレ帰るよ。ありがとう」 しかし。待てよ。 桜田門凛子先生の想い人斎藤の好きな女子って誰なんだろう?? あれだけ愛されて……こいつは全然違う子ともう付き合ってたりするんだろうなあ。 プリンスだもんな。 ははは。 俗物根性がもたげてよーし観て進ぜようぞ!!モテ男斎藤久嗣。 真鍋の想いを一蹴してくれたプリンスよ、その点は感謝するぞ。 「飲み物持ってくるよ。なにがいい?」 「なんでもいいよ」 「ちょっと待っててね」 やっぱ。モテる奴は違う。 心根も優しいんだなあ……いい奴なんだ。 女子っぽい感じがあるのは女子と常に接してるモテ男の特徴だな。 わざわざマグカップにオレンジジュースを入れて持って来てくれた。 さあ、飲んでと自分は丸い椅子を引き寄せてベット脇に座った。 「サンキューな。ところで。北海道ってどこ廻るの?広いよナ」 斎藤は嬉しそうにしゃべり出した。 オレはそんなイケメン王子に集中した。 白い霧がいつもより濃い。 なかなか晴れない。 お。 見えて来た。 鏡。 斎藤が鏡を覗いている。 ふーん。 かがみ……かがみ、かがみ。 なんでだろう? え!! 鏡に映っているのはオレ!? なんで? オレ?! オレえええええ!!? 斎藤の整理整頓された輸入家具っぽい机の上に鍵のかかった日記帳が載っているのが見えて来た。 鍵を回す。 ーーーー今日。久しぶりにタケシ君と話せた。嬉しい。タケシ君がまた学校に来てくれるようになった。一緒の部屋に泊まれるかな。彼の寝顔が観たい。そう願っていたら叶ってしまった。タケシ君には申し訳ないけど。倒れてうちの医院に運ばれてきた。僕は頼んで特別室の個室にしてもらった。兄貴は気前がいい。ずっとタケシ君の意識の無い顔を見ているうちに我慢できなくなった。最低だ。でも本能のままに行動してしまった。ごめん。ごめんね。君にとって初めてだっただろうか。僕は初めてだった。乾いた唇の感触が今も残っている。僕はもうこの恋を諦めきれなくなってしまった。駄目だ。僕はーーー おうぇえ 吐いた。 マグカップが床に転がって派手な音をたてて割れた。 斎藤は看護師を呼んで来ると叫んで飛び出して行った。 オレのファースト・キッスが強盗されてしまいました、にゃんこ隊長…… 斎藤と入れ替わりにオトンとオカンが現れた。 「大丈夫か。こんなことになるんじゃないかと思ったゾ」 「タケシ。学校だけが全部じゃないんだから。いいのよ。もうムリしないで。吐いたの? まあ。ゲロって。吐かないより吐いた方が男ってもんよ」 意味不明。 にゃーにゃーネコの鳴き声がする。 「ああ。この可愛いにゃんこ。 あんたの部屋にいたんだけど。拾ったの? ちゃんといいなさいよ。 この子飼おうと思ってね。 こんな美ネコそうそういないわあ。 店で買ったら高そうね」オカンの抱えるエコバックから首だけだしている。 オレにはわかる。 にゃんこ隊長はありったけの愛嬌を振りまいてオカンを陥落させたんだ。 オトンが、 「こらこら。母さん、病院でみつかったら大変だ。にゃんこは私にかしなさい。重いだろ」 「あら。そんなことないわ。この子はわたしになついてるのよ。ねえ。三毛子ちゃん」 「勝手に名前つけたのか。お父さんはゆるさん!そんな変な名前」ぷいと横を向いて腕を組む。 何かと面白くない時はこのポーズだ。 オトンも陥落してたのか。 しっかし。 このネコ激愛ぶりはなんなんだ。 ふわーんとあくびしたにゃんこ隊長はちょっとだけピンクの舌を出したまま口を閉じた。 「きゃああっ!可愛いっ。舌が出てる」 一頻り、ネコの名前で揉めてから脱力夫婦は 明日名前を決める事を決めてもう帰ると席を立った。 「じゃあ。明日には迎えにくるから。 あんまり迷惑かけないでね。 クラスメートの病院だってきいたわよ。 すっごい美少年よねえ。ジャニーズにもそういないわあ。 ジュノンボーイよね。今度家に連れて来てヨ。写メとってよ。じゃ」 背中を向けたオトンとオカンにオレは全力で叫んでいた。 「待って!!置いてかないでぇ、オレも帰るよ。にゃんこ隊長!!」 このままここにいたら何もかも強奪されるかもしれないっじゃないか。身の危険を感じるゾ。 「あら。『にゃんこ隊長』ってちょっといいわね?」とオカン。 「そうだな。しっくりくるぞ」とオトン。 正式に名前が決まった。 にゃんこ隊長はオカンの腕から逃れるように、ぴょんと跳ねてオレのベッドの上に乗りオレの顔をぺろぺろ舐めた。 「そうね。じゃあタケシも一緒に帰りましょうか。入院代がかかるしね」 ……助かった、にゃんこ隊長ありがとう。                          
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