第六話

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第六話

次の朝。 学校は休みなさいとオカンの剣幕に押されてベッドに戻った。 しばらくゴロゴロしていると腹が減って来た。 こんなに早く起きる習慣が無いオレは朝っぱらから食事する習慣も無かった。 妙なカンジだ。 下に降りるとオカンはいない。 食事の用意もしてない。 はあ。外は雨か寒い。寒いっ。 だれもいないリビングは冷え切っていた。 エアコンを最大にしてこたつに足を突っ込んだ。 ふぎゃああああ…… にゃんこ隊長がのっそりこたつから這い出て来て 「痛いだろ」とぷんぷんしてる。 「ああ。ごめんなさい。思いっきり蹴ったよね」 「わしの安眠を妨害するとは何事じゃにゃああ」 「ごめん。ごめん」 キッチンから 朝飯のンベーコンエッグとロールパンを持って来た。 コーヒーメーカーには少ししか残って無かったから牛乳を足した。 「これ食べて機嫌直してよ」 チャオチュールのスティックから中身を皿に出したのを にゃんこ隊長の目の前の床に置いた。 五里霧中で舐め始めた。 これはネコのおやつで最高に旨いらしい。 やっぱネコじゃん。 「ねえ。にゃんこ隊長。隊長の星はどんなところなの? そもそもさあ。何でオレのとこきてこんな事してくれるの?」 「ふん。故郷か……それはそれは酷いところじゃ。星は二百年前からわんわん政権が握っとる。にゃんこ党は惨敗続きだ」 「へえ。犬もいるんだ。おもしろそうだね」 「おもしろいもんか!わしはつまらん罪で投獄されてこのザマだ」 「えー犯罪者?何したの」 「ただお供えものを頂戴しただけ」 「おそなえ??」 「あの道路際にあるじゃろ。花束とか缶ジュースとかお菓子とか」 マジか。亡くなった人を悼む品々を…… 「それで。捕まった」 「本当にしょうもないね」 「裁判にかけられ有罪。それがわんこのお供えだっただけの理由で」 「それが争点だったの?何年いたの刑務所」 「今、この社会奉仕が罰じゃ。おまえにこうして仕えているじゃろにゃー。プリンもここにあけろ」 プッチンして皿にプリンを乗っけた。 「へえ。でもどうしてオレなの?」 「宇宙情報メガバンクの検索結果から、『この宇宙でつまならい人生送ってるやつ総合ランキング』28位だったから、おまえ」 絶句した。 そんなにオレって不幸だったのか…… 「28位はまだずっとマシじゃ、にゃー」口のまわりをカラメルだらけにして喋り続ける。 「1位の不幸者を担当した犯罪者は大抵精神を病む」 「そう。じゃあ刑期があけたら帰っちゃうの?」 「おまえのランキングを下げないと帰れないにゃあん」 ………そんなシステムになっていたとは。 満足したのかにゃんこ隊長はこたつの中にのっそり入り込んで丸まり寝てしまった。 このこたつ。 あの脱力夫婦がネコのためにと購入したのだ。 オレより可愛いとオカンはオレに言い放った。 おまえもネコになればいいのにとさえ。 ああ……暇だなあ。 学校に復帰してから色々あったなあ。 何よりさあ。 この力使いたいなあ。 家デンが鳴った。 「はい。はい。そうです天童です」 ーーーあのね~おたくのお兄さん。今。大変な事になっちゃってんの。うちの人いる? こんなシンプルなオレオレ詐欺ってあるのか。バレバレじゃん。 「すみません!あと少しで帰ってきます。兄貴何したんですかあ!」 ーーー会社の金使い込んじゃって。借金こさえたのよ。 「ええ。うちの兄に限ってそんな事しません」 ーーーキャバクラで派手に遊んでたんよ知らないよね~ 「ええ!!たいへんだああ。どうしたらいいんですか川上さん」 ーーーはあ?え?ああ?? 電話の向こうで狼狽えているのが手に取るように解る。 ―ーー誰だよ。川上って。 「いえ。何でもないです。 兄貴は警察に掴まるんですか!?どうしよう」 ーーーそこだよ。どうしようか。お宅も困るよね。 「はい!母が帰ってきたらすぐそっちへ金持っていきます!! 新宿三丁目えーっと丸太ビル……四階301号室ですね。 駅前のケーキ屋からまっすぐ行って突き当りを右。 路地を通って左手に銀行。 その右手の細長いビルで…でも何で四階の建物なのに301号なんですか?」 ーーー誰だ!!オマエ誰だよ!!何で知ってんだ!! 「そんなに怒鳴らないでください。与那嶺さん。沖縄の空って青くて綺麗でいいですね。与那嶺さんの実家もネコ飼ってるんですね。黒いネコですね。うちは真っ白なネコいます。ああ……いいなあ。大勢兄妹がいて。お姉さんのタピオカの屋台手作りですか。おおっ。でっかいストロー。ココナツミルクの美味しそうだ~ でも『スター・バズル』って店名誰がつけたんですか?」 ーーー……… ガチャリ ツーツーツー ハハハ。ソファの上に転がった。 おもしろ。 笑いが止まらない。 泣けてくる。
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