第七話

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第七話

教室に入ったらほんの数人しかいなかった。 登校時間を間違えた。 遅刻の反対というのは漫画でもないだろう。 机に座ってぼーっと外を眺めているしかない。 「あの。天童君よね?おはよ。早いね。その白いの可愛いね。いいなあ」 そうだ。 今朝、出る時。にゃんこ隊長が頭に飛び乗ったかと思うとあっという間に白いモコモコのイヤーマフラーに変身したんだ。 「本日はこれをつけて行け若人よ」とかなんとか宣わって。 こんな変身技あるんだったら何でリュック背負う必要あったんだよ。 学校で女子に話しかけられたのは『掃除当番変わって』しかなかった。 面食らった。 「わたしの事知らないよね。 夏休み少しまえに転校して来たの。伊集院撫子」 「はあ。ずっと休んでたから」 「そうだよね。クラス馴染めてないもの同士だね。ふふふ」 「はあ」 「あのね。あの。唐突でびっくりだと思うんだけど。お願いがあるの」 「はあ」 目の前で手を合わせて 少し腰を引き気味に大きな胸を強調しながら 片眼をつむって魅せるのは『技』だと感心した。 「いいよ。なにすればいいの?」 「ありがとう!」ツインテールは少し茶色。色素が薄いんだ。肌も真っ白だし大きな目も茶色い。 クォーターアイドルという風貌だ。 こんな可愛い女子がオレに話かけてくるとは。 今までならあり得ない。 引きこもりを止めて以来どうも世界が変だ。 にゃんこ隊長のお陰なのか?? 「あのねえ。実は部活の話なの。華道部なんだけど。 そこで唯一友達になった子がいるの。 その子がね。 このクラスの斎藤君のこと好きになっちゃって。 だから私と天童君と斎藤君。 あと、その友達の愛菜っていうんだけど。 Wデート。 どうかな? 天童君て斎藤君と仲いいよね?誘ってくれるかな?」 耳元でにゃんこ隊長の囁き声がする。 くすぐったくて「ぎゃああ」と叫んだ。 「大丈夫?!」 「いや。何でもない。それで、その友達ってどんな子なの?」 喋りまくる伊集院の頭に集中した。マフラーのにゃんこ隊長が伊集院を覗いてみろと命令したのだ。 Enter!! 白い霧は少ない。今までで一番晴れている。 れれれ。 マジで汚物をみせつけられた気分になった。 「あのさ。伊集院さん。あんたも斎藤のこと好きなんだろ?」 「そ、そんな……そんなわけない」 「なんで?なんでそんな陰険な画策するの? 愛菜って子。はっきりいって君より普通な感じ? 自分の方が数段綺麗で可愛い。 服のセンスもいい。へえ。その愛菜って子の眼を覚まさせてやりたいのか。鏡を見ろと。プリンスに相応しいのはこの学校のプリンセスである自分が相応しい……かあ。怖いねえ」 「酷い!そんなんじゃないのよ」茶色いツインテールをぶんぶん振って否定する。 「あきらめろ。アイツだけは無理だ。その友達も君でさえも絶対に無理だ」 「彼女。もういるって言いたいの!?他の学校なの?それくらい教えてよ、天童君、意地悪しないで教えてよ」 なんか甘い声でこうもお願いされるとなあ……だが死んでも斎藤の好きな奴を答えるわけにいかない。 そしてややこしくなった。 斎藤がオレたちの会話に割って入ってきやがった。 「おはよう。天童君。もう身体、大丈夫なの」 「お、おはよう。お陰でな。ありがとな。この間は」 「やだなあ。水臭い。当たり前のことばかりだよ」 ーーー初キッス強奪はあたりめーじぇねえよ斎藤!! 心のなかで突っ込む。 伊集院撫子はうつむいて真っ赤だ。 「どうしたの伊集院さん。熱でもあるんじゃない?」 女という生き物はオソロシイ。 「そ、そうかも。なんかフラフラする。わ、わるいけど斎藤君、 保健室までつきあって」 潤んだ子犬みたいに甘える。 「そっか。やっぱり。女子の保険係の田中さん呼んで来るから。待ってて。さっき廊下にいたから」 踵を返そうとして 「そうそう。これ」と斎藤。 カバンから白い封筒がオレの顔の前に突き出された。 蝋封がしてある細長いのだ。 「なになに」伊集院撫子が興味津々だ。 あけてみると、 お誕生会の招待状でした。 マジかホモおぼっちゃま。 速攻この招待状を目の前の伊集院に千円払ってでも譲ってやりたかった。 おまけに「これは真鍋君に渡してくれるかな」ともう一通を言付かりました。 「あ、ありがとな。斎藤。この場にいたのも縁だ。伊集院も招待すれば。 一人でも多い方が楽しいよ。 ああその、さっきの伊集院の華道部の友達も連れてくれば」 「ありがとう天童君」伊集院の声が弾んだ。その声の裏で斎藤を略奪してやるという闘志が漲ってる。 兎に角大勢いれば何もできないだろうし何かと逃げ道もありそうだ。 斎藤は何故か少し寂しそうに、 「そうか。そうだね。多い方がいいね。あと、この間お世話になった桜田門先生も招待すべきだね」 それはアカンとも言えず曖昧に笑ってごまかした。 地獄の交霊会になりそうだ。 モフモフイヤーマフラーのにゃんこ隊長が 「お友達がいっぱいできたにゃん」と囁くが、面白がってるだけじゃねえ? さっきからモコモコ蠢いてくすぐったい。
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