エピソードゼロ 再会編

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エピソードゼロ 再会編

 永遠の愛を誓ったと思った。  それは、人間同士だけの誓いだと思っていたが、不思議な少女に出会ってしまってから、化け物と恐れられた自分が、人間のように一人の女性を愛するとは思わなかった。 「しかし・・・、これはナンセンスだ!」  列車に飛び乗ったリースは、長い時間をかけて新潟県糸魚川駅に着いた。  まだ雪の残る駅周辺には、時折日本海から吹く北風がまだ寒い。  雪国生活をあまり体験したことの無いリースにとっては、この雪というものが何なのか理解しがたい物だった。  環の実家の場所は聞いていた。  糸魚川駅の隣、海の近くの青海駅を降りて、山に囲まれた畑と田んぼしかない村だと言っていた。地名も覚えている。  リースは環に教わった日本語を頼りに、いろんな人に尋ねながらなんとか、環の実家に辿り着いた。  見慣れない格好をした異国の人間が村に来ているという噂がすぐに流れ、会う人会う人皆が物珍しそうにリースに目を向けて来る。そこへ一人の中年の女性が近づいて来た。どこか面影が環に似ている背の低い女性だ。 「おまん・・・、もしかして、環の友達の外人さんかい?」 「環を!知っていますか?」 「知っているも何も、私の娘よ・・・」  リースは驚くと同時に、どこか面影があるのも当然だと納得をした。 「彼女は?彼女に会えますか?」  リースの流行る気持ちを抑えようと、環の母親は立ち止まって、山の開けた青空へ向かって指を指した。 「どこですか?」  リースは指を指す方向へ顔を向けた。しかし、その先には空しか無かった。 「娘は死んだよ。病気でね。こっちに帰ってきてから直ぐに。治らなかったよ」と顔を俯かせてすすり泣く声で語った。 「環が・・・、死んだ」  リースには実感が湧かなかったが、彼女の存在に会えないという悲しみを感じた。  リースは環の実家に行った。 『なぜこんなにも足取りが重くなったのか?』  そんな重苦しい表情を作り、辿り着いた彼女の家で、母親はリースに彼女の写真を渡した。  その瞬間。手渡された写真からリースは彼女の思いを感じ取った。 『もし、私を訪ねてくる外人さんがいたら、名前を聞いてこれを渡して。そして、渡しは死んだと伝えて・・・』 『そんな、縁起でも無いことを・・・』 『良いの・・・。それで彼も私もお互いの事を忘れられるなら・・・』  リースは彼女の残した思念から、彼女が生きていることと、彼女の自分への思いを知ると、母親に「彼女は生きていますね。どこですか?」と、必死の形相で問いつめた。 「いや、今説明したろう。あの子は・・・」 「死んでいません!この写真から彼女の思いが感じ取れました。彼女だって、僕に会いたがっている!会わせてください!彼女に!」  必死な思いですがるリースに根負けしたのか、母親は「なら、驚かないと約束して、ついておいで」と言って歩き出した。  青海川沿いを歩く二人。川沿いの道にも残雪は残っており、ここも日本海から吹く寒風がまともに肌身に突き刺さる。  環の母親の案内でリースは、川沿いの病院に案内された。  川沿いの病院は木造で造られた二階建ての小さな病院で、色は薄いエメラルドグリーンに塗られている。建物自体、造りが西洋風に造られており、どこかリースには懐かしささえ感じさせた。  川側とは反対の入口から中に入る。入ってすぐ右に階段があり、その階段を上って二階に上がると、右手の川側へ向かった先の左の病室に案内された。  病室の入口には《佐藤環》と患者名が書かれていた。 「彼女は、何の病気ですか?」  リースの問いに母親は、「肺結核・・・」と答えた。 「入院中は娘に会えるのは家族だけ。他人に感染させると悪いと思って、娘はあなたにも伝えなかったのよ」  リースは面会謝絶と書かれている病室の前で、彼女の様子を知ろうとするが、静かに眠っている様子だった。 「僕は感染症にはかからない。特殊な体なんだから・・・」  リースはそう呟くと、病室の扉に手を掛け開けると、母親の制止を無視して中へ入った。 「あっ!だめ!せっ、先生!」  廊下の奥へと環の母親の声が遠退いていく。  リースは病室の中へ入ると、隙間から入る風に煽られたカーテンが揺れている。天井の電気の眩しい光が真っ白なシーツと掛け布団を際立たせている。その上に眠る少女がまるで、童話に登場する眠り姫のようだ。  リースは自分の指を軽く噛むと、滲み出した血を数滴、環の口に足らした。 「これで、もう離れられない。そして、君の病気は回復へと導かれるだろう」  リースはそう言葉を残すと姿を消した。
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