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1923年(大正12)9月1日11時58分頃
リースは、環の実家で挨拶を済ませ、今後の話を環の両親と話し合っていた。
「お昼ご飯は、何にしようかね?」
環の母親が台所に立っていった。
「リースのご両親にも挨拶をしないと。フランスに行くことになるのかな?」
「いえ、実は僕には両親はいません。幼い頃に亡くなって、教会で育てられました。その教会も今は無くなってしまって・・・」
リースが、話の途中で言葉を切った。
それは突然、ラジオからの叫び声で部屋にいた三人の耳がそっちに向いたからだ。
「なんだ?ラジオから叫び声が聞こえたけど?」
「微かに、何か言っているようね・・・」
母親の言葉に、リースは頷きながら聞き耳を立てた。
『只今、激しく揺れて・・・ます。みなさ・・・、火の元に注意・・・、あぁ!』
「揺れているって・・・」
リースが呟くと、二人は声を揃えて「地震か?」と言った。
数分後、再び放送が始まったが、そこからは最悪の状況が伝えられた。
『この放送局の外は、まさに地獄絵図のような惨状です。あちらこちらから黒煙が上がっております。縦に大きく揺れた後、激しい揺れが襲い、建物は壊れ、火災が発生しております』
その放送を聞いたリースは、蒼白い顔を更に、血の気を失った。
「環・・・!」
リースは挨拶もそこそこに、環の実家を飛び出し、横浜の自宅へと急いだ。
『昼間では、この体でしか動けない。どうする・・・。?!』
ふと、田んぼと畑を挟むように聳える山を見つめた。
『やるしかない!環の元へ急がないと!』
リースは山への入口に向かって走り出した。
山の森の中へ飛び込むと、化け物の姿へ変身し、そこから狼へと姿を変えた。
『走れ!森の中を夜になるまで走れば、夜は空を飛べる!今は、この体が焼けようがかまわない!走るだけだ!』
狼へと姿を変えたリースは、暗い森の中を全力で草木をかき分けながら走り続けた。
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