エピソードゼロ 再会編

8/8

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 リースはまだそこら辺で燃え続けている街の中を歩き彷徨った。何をどこへ行けば見つかるのかわからない。それに、街中の様子は殺伐としている。住人達は必死に消火に当たっている。そこを平然と歩くリース自身が傍から見ればおかしく見えるのだ。 「外人さん!火を消すのに手伝ってくれ!」  そんな街の人からの声がリースの耳に届く。  リースは断る理由を考えてみたが、見つからず、ただ見ているだけでも通り過ぎることも出来ず、一緒に火を消すことにした。 『環は許してくれるだろうか・・・?』  そんな胸中はお構いなしに、街を覆う火の手は次から次へと燃え広がっていく。 「だめだ!逃げろ!焼け死ぬぞ」  そんな声が響き渡る。広がる黒煙は空を覆い、あたかも自然が作り上げた暗闇ではなく、人工的に作られた暗闇が横浜の街を覆った。 「あぁ!朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ!」  突然、辺りに響いた声に、リースの傍にいた住人が振り向いた。その先には、井戸の前で立ち尽くす火傷を負った一人の男性が立っている。その姿は見るからに火災から逃れようと逃げてきた姿だった。  しかし! 「許せねぇ!こんな状況の中で、大切な井戸に毒を投げ込むとは!」  誰かがそんな声を張り上げた。その声を張り上げただけならまだしも、周りにいる住人達は平静を保っていられるような状況では無かった。  数人の住人が束になって、その井戸の前にいる男性に襲い掛かった。  それは、獲物に集団で襲い掛かる猛獣のような姿にしかリースの目には映らなかった。 「やめろ!」  リースの制止する言葉はもはや平静を失った住人達の耳には届かなかった。井戸の前で始まった暴行は殴る蹴るが数人で一人の男性へと行われた。  男性の体は見ているだけで木偶の坊状態である。もはや、リースの制止は届かない。  やがて、動かなくなった男性の周りで勝ち誇ったかのように立ち尽くす男たち。その耳に離れた場所で再び、同じような声が挙がると、「今度はあっちだ!」と誰かが叫び、その声に先導され集団は移動して行った。  リースが井戸の前に歩いていく。その場に倒れている男性は、もうすでに殺されていた。リースは自分が何も出来なかった事、何もしてやれなかった事に後悔した。  黒煙の暗闇の中、集団による暴行が周辺で続けられた。  リースの視界に入るだけでも、周りの数か所で集団による暴行が行われている。その一つの集団に襲われている人の中に、見知った顔が見えた。  それは浦戸親子だった。 「ふみちゃん!」  暴行集団は男性だけじゃなく、女子供にも襲い掛かっていたのだ。 「やめろ・・・、やめろ!!」  リースの全身に鳥肌が立った。 「これが人間の所業か・・・?これが、俺が愛した環と同じ、人間のやることか・・・?」  リースの視界に入る光景は、幼いふみの体を必死に守ろうとする浦戸夫婦の姿だった。 「やめろ!やめるんだ!!」  リースは叫んだ、と同時にすさまじいスピードで暴行集団に襲われている浦戸親子の前に移動すると、黒のスーツを黒羽に変化させ、暴行を繰り返す男たちを吹き飛ばした。 「やめろ!この人達には何も罪は無い!」 「あぁ!朝鮮人の味方をする奴は悪人だ!貴様も・・・」  途中で言いかけた言葉を飲み込んだ男は、リースの背中に生えた羽を見て、「バッ、バケモノだ!」と叫んだ。 「いや、あんなの単なる飾りだ!騙されるな!やっちまえ!」  再び、暴行が繰り返された。リースの足元に倒れている浦戸親子達にも、男たちの暴行の手が向けられた。 「やめろ・・・!」  その声が届かないとリースが悟った瞬間、リースの堪忍袋の緒が切れた。 「貴様等・・・、それでも人間か!!同じ赤い血が流れる人間じゃないのか!!」  リースの全身が震え出した。 「そうさ・・・。俺はバケモノだ・・・。だがな、貴様らよりはまだ、人間に近いとも言える・・・。貴様らは・・・、人間の皮を被った悪魔だ・・・。悪魔なら俺が・・・」  リースの体が少しずつ大きくなる。そして、肌の色は灰色へと変化し、黒髪も青く染まり始める。美しかった青い瞳は金色と黒の不気味な色に変わり、指先の爪は鋭く伸びた。  口からは鋭い牙が生える。  声も変わり、「悪魔なら俺が・・・、悪魔祓いをしてやる・・・」というと、一瞬の動きで周りにいた男たちを鋭い爪で薙ぎ払った。  その動きは人間の域を超えた動きで、周りにいた暴行集団の男たちは次々とリースの鋭い爪によって息の根を止められていく。  それは数分の出来事だった。  リースは三人を抱きかかえて近くの広場に移動した。いつもの人間の姿に戻り、三人の状態を確認する。  しかし、浦戸夫婦はすでに息が無かった。ふみはかろうじて息をしていたが、今にも止まりそうな感じで呼吸が浅い。  リースは自分の指を噛んで、傷をつけると、じわりじわりと滲み出す血をふみの口に数滴垂らした。 「ふみちゃん・・・。舐めるだけでいい。俺の血を舐めてくれ」  リースはふみの心に届けと強く念じて叫んだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加