第01章① : 疑惑 - 幸子

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 今日休みだった私は、午後から近くのスーパーへ買い出しに行き、早い時間から彼が好きなハンバーグとエビフライの下ごしらえをしていた。仕事だった彼は20:00過ぎに私の部屋に合鍵を使って入ってきた。 『えっ!? ちょっと待ってよ……』  最初の感想はそれに尽きた。  今日は5月だというのに少し肌寒い日だったせいか、彼は薄手のニットベストをジャケットの下に着ていた。間違いなくそのニットが原因だと、私は瞬時に察した。  少し高そうでカッコイイデザインの黒いニット。彼が愛用しているユニクロで買った物ではないと思う。何故なら、洋服の買い物は2人でいつも行く為、彼がどんな商品を買ったかも、私は覚えている。逆に言えば、彼も私が買った商品を分かるばず。  しかも、そのオシャレなニットからは【香水】の様な甘い香りがした。私は勿論、彼も香水は使わない。あんなトイレの芳香剤みたいな物を身体に振りかける行為自体が、私からしたら恥じ以外の何ものでもない。  そのニットから間違いなく香るトイレの匂い。それだけでも不快感なのに、その服を何時、何処で買ったのだろうか? そんな香水を付けて誰と会ったのだろうか? でも同じ会社の彼と私。今日彼が休日出勤だった事は、シフト表でも確認出来る。だとしたら、そのニットに香水を付けたのは今日じゃないって事?  そんな感情を抑えながら、私は彼にビールを出してエビフライを揚げた。油の匂いなのか、香水の匂いなのか。それとも、そんな彼に、食事の後に触れられる事を想像したからなのか……。  吐き気がした。  想像は悪い方へと誘われていくのだと、今日改めて感じた。  彼は他に女が居る?  疑いたくはない。信じたいし、信じている。いつもと変わらない彼の振る舞い。そして落ち着いた話し方と心地良い声。加えてキレイで整った顔。他の女にも、彼はこの姿を見せていると思うと、みぞおちの辺りが痛んだ。  臆病な私は、彼を部屋から見送るまで確認する事が出来なかった。もし、私の想像通りに他に女が居たとしたら……。どう彼に接して良いのか解らない。そして、もしも私より相手の女を彼が選んだら……。私は生きていけるだろうか? そのくらいに、彼に依存している自分を知っている。  勇気のない私は、今日からの出来事を忘れない様に日記にしていこうと思った。  私は負けない。  彼を絶対に渡さない。  他の女に目が行かないくらいに、私は努力する事を決めた。
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