虹の扉の向こう側

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 10月3日、朝の9時に目が覚めた。まだ少し体がだるい。外はもう明るくなっており、いつの間にか木々たちが赤や黄色に色づきだしている。窓を開けた俺は鼻からゆっくりと外の空気を吸った。朝の空気は夏の匂いから秋の少し切ない匂いへと変化していた。  久々に風邪をひいた俺はバイト先のレストランを1週間も休んでしまった。 その日の夕方は、1週間ぶりの出勤の日で少し弱った体を引きずるような気持ちでバイト先に向かった。  いつものように開店の1時間前に店に着いたら、店長のしょうじさんとキッチンの従業員数名が仕込みを終えて休憩に入ろうとしている所だった。  「おはようございます。先週はご迷惑をおかけしました。」 店長に会うなり俺は挨拶をした。  「おぉ、リュウ!!もう良くなったとか?みんな、心配しとったんやぞ。」と店長は相変わらず元気に答えた。キッチンからも仕込みを終えた従業員たちが出てきて、俺を見るなり、「あ、リュウ。生きとったんや。おかえり!!」と笑顔を見せた。  「はい、とりあえずインフルエンザではなかったから良かったですけど、熱が中々下がらなかったんですよ。あんなひどい風邪久しぶりにひきました。」  本当にひどい風邪だった。高熱が39度も出たのは小学生以来だったのではないかと思う。布団の中でうなされていた俺はおかしな夢を見た事を思い出した。死んだおふくろが裸でやって来て、俺を抱きしめるという何とも複雑な夢を見た。その翌日から熱は下がり始めて、ようやく2日前に回復したところだった。何だか全てが子供の頃の感覚に戻った気がしたがすぐに気のせいだと思った。    店長はまかないの準備を嬉しそうにせっせとしている。俺は彼がこの時間を何よりも大切にしているのを知っていた。  「おぉ、リュウも先に食べてしまうか?バーの準備はある程度終わっとるけん。」と店長は俺に言った。  「ありがとうございます。今日のまかないは何ですか?」  「今日はボロネーゼと残りもんの海鮮で作ったカルパッチョ!」  「おぉ、美味そうですね。病み上がりなんで少しだけ頂きます。先に着替えてちょっと在庫確認してからいただきます。」  「うん、分かった。あんまり、無理すんなよ。倒れられたら困るけん。」と店長はぽっこりと出たお腹をさすりながらはっはっはと笑った。
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