虹の扉の向こう側

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 俺がこのイタリアンレストラン“ミラノ”で働き始めたのは1年半前のこと。東京の大学を卒業したあと、そのまま東京でIT企業に就職した。プログラミングのスキルをもっと上げたくて向上心を持って就職したけど、最初の1年間は雑用ばかりで思うような仕事内容ではなかった。これが就職か…。と、どこか冷めた気持ちで過ごしていた。  2年目からは後輩も出来て任される仕事もだんだんと増えてきた。でも、仕事内容は毎日一緒で新しい発見が無く、このまま東京でこの会社で働き続けて良いのか?という疑問とずっと過ごしていた。上司には気を使い、同僚とは打ち解けているようで皆どこか冷めた人間関係だった。会社と一線を置いているというよりは、皆、将来への希望が見つけ出せずに不安を抱えながらも食べていく為に、住むための家賃を払う為に毎日それほど来たくもない会社へやってきて一日過ごしているように見えた。いつかはここを辞める事ばかりを考えているから、そこまで仕事に本腰が入っていない。そして、俺も間違いなくそんな気持ちだった。  このままではいけないと思い、週末は自分のスキルアップの為にプログラミングの講習会や興味がある英会話の体験学習などへも参加した事があったけど、平日5日間の勤務とたまにある土曜日の休日出勤で体は明らかに疲れており、だんだんとそういった場所への参加も少なくなっていき、たまの休みは家で過ごすことが多くなっていた。  結局俺の就職生活は4年目で幕を閉じた。  東京には大学時代からの友達もいるし、2年目からは会社での昇給もあったし、後輩もできて傍から見れば順調に見えていたかもしれないけれど、東京の生活はずっと違和感がつきまとっていた。先行きの見えない不安に焦りながらも、会社という安定した船に乗って人生の舵を自分できることをすっかり辞めてしまっていた。このままじゃいけないという思いだけがずっとあって、毎日その気持ちとの葛藤だった。
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