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この世界は誰かが得をすれば誰かが損をする
そういう構造で成り立っている
「これについて、出席番号24番、どう思うか? 言ってみなさい」
すかした倫理担当教師の林田が、出席番号24番の須藤一貴への質問を言い終えると、緊張感でしんと静まる教室の気圧が変化したのを僕は感じた。
それは、もしも須藤がこの担当教師の質問にうまく答えることができなかったら? 次に(こんなワケのわからない)質問をされるのは俺だ私だというクラスメートたちの身構えた気配でもなく、自分たちは損をしたくないから、須藤でこの質問を終わらせろって無言の圧力でもなかった。
何言ってるの?
なんのこっちゃ?と思われるだろう。
こういうことだ。
(来るぞ!)
須藤が林田からの質問にどう返答をするか、彼と同じ授業を受ける僕らクラスメートたちは身構えて期待したのだ。
「先生よお。寂しい。寂しいこと言うねえ」
須藤がそう言った瞬間、
(来たっ!)
僕らクラスメート全員は同じ言葉を同時に思い浮かべた。
一言多いが言葉には謎のキレがある男、それが須藤一貴という男子。
「この世は損得勘定で動いているって? バカ言っちゃあいけないよ。そんなのはオンラインゲームのなかだけだよ」
須藤のセリフを聞いて、僕は身に覚えのある感覚を覚えた。
彼が何かのオンラインゲームの話をするのなら、僕は耳をふさいだほうがいい気がしたけど、怖いもの見たさ(まあ聞くんだけど)って危険な好奇心ってやつが「彼の言葉を聞くんだ!」って僕の関心をかき立てた。
「先生。これは先日の話なんですけどね。とあるオンラインゲームをプレイしていたとき、アイテムを安く入手して他のプレイヤーに高く売ること(いわゆる転売)に問題はないのか? という議論が湧き上がったんですよ」
須藤は言った。
そのとき、あるプレイヤーがチャットで言葉を綴った。
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